おいしい野菜を生産しているにも関わらず「野菜、好きじゃないんです」。人懐っこそうな笑顔をみせながら「人見知りなんです」。どうも驚くことばかり言う―。
「つくる」がキーワードの人生、始まりは幼少期のプラモデルあたりまで遡る。調理師の道を歩みかけるも、大工、内装、水道工事と、ゼロから作り上げる楽しさに、骨惜しみせず働いた。たくましい体躯はそのころからの賜物だ。
土を相手にするようになったのは、母の手伝いで花屋の世界に飛び込んだ20数年前。ただ売るだけではあきたらず、ポットの中の小さな世界に無数の微生物が蠢く花もまた、自分で作ってみた。野菜苗を扱ううちに農家の跡継ぎと接する機会が増え、販路拡大への協力から生産へと道を開いた。
冒頭の言葉の真意を問えば、自身でも気づいたことがある。”おいしくないから好きじゃないんだ”。だからおいしい野菜を作ろう。畑に出る毎日でくっきりついた、半袖の日焼けあとは、「農業や飲食で誰かに幸せになってほしい」という願いがこもった勲章だ。
「電話がなくなれば完全オフになるんだけど」といたずらっぽく笑いながら、好きな釣りに行くチャンスを狙っている。