庭園の紅葉をライトアップした町立湯河原美術館の館長 池谷 若菜さん 湯河原町鍛冶屋在住 54歳
絵の傍らで16年
○…レンガ風の美術館。その前身は廃業した老舗旅館だった。かつて敷地にあった建物に夏目漱石が逗留したこともあり、訪れるファンも多い。「皆さん深く調べて来られますね。私達が知らない事まで」。語り口は女将のよう。敷地には温泉やぐらが立ち、客室の名残もあるが、こうした建物で美術品を所蔵するのは一苦労だ。温度や湿度を計り、加湿器や除湿機を駆使してコンディションを調節する。ケースの中には竹内栖鳳や安井曾太郎といったビッグネームの作品ばかり。プレッシャーはいかほどか。
○…鍛冶屋出身で今も鍛冶屋住まい。大工の家に育ち、自宅脇には作業場、近所には父の手掛けた住宅も建っていた。口癖は「飯は早く食え」。怪我をしても動じない職人気質の後姿を見て育ったという。湯河原中、小田原高校を卒業後、専修大に進学。漫画研究会に入り、同人誌に作品を寄せた。町役場に就職後も10年ほど絵画教室に通って静物や風景を描き続けた。「作品はとても表に出せません。絵描きじゃない事が良く分かりました」とぽつり。
○…だが”ご縁”はそんなことでは切れなかった。働きながら通信過程で学芸員の資格を取得したこともあり、同館オープンを前にスタッフとして抜擢された。それから16年。色づいた紅葉をライトアップし、夏にはモネゆかりの睡蓮が開く観光名所となった。初の女性館長として辞令を受けたのが3年前。肩をすくめて「正直、まいったなぁと。今でも力不足ですよ」。
○…先月末、同館が作品を所蔵する画家・平松礼二氏が地元小学校を訪れ、児童が描いた墨絵をもとに日本画について語った。学校に働きかけ、平松氏も快諾、初の試みが形になった。アイデアの種になったのは「子どもたちに来てほしい」という願い。子どもが自発的に美術館に来るのは稀なこと。「大人が教えなければ」。敷居が高くなりがちな場をもっとオープンに――館長はドアを拡げている。
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