立ち入り制限が続く大涌谷で、大地に聴診器を当てるようにガスの変化を探る人がいる。東海大理学部の大場武教授は15年前に研究に着手し2013年から毎月のように噴気区域(大涌谷・上湯)に通い、地面の穴にパイプを挿してきた。ガラス容器に集めているのは大気に吹き出る直前のガス。水蒸気や硫化水素、二酸化硫黄などが含まれており、地下水が下から湧き起こる「マグマ性ガス」と混ざることで生まれる。地下500m〜1Km付近で起こる現象だ。
群発地前後で成分が変化
これまでの調査で、二酸化炭素などのガスの成分は火山活動に合わせて変動することが分かった。とりわけ重水素は群発地震(昨年GW頃)の前に急減し、群発地震の増加を境にして再び量が増えた。ちなみにこれら2つの成分はマグマ性ガスに多く含まれる。これらがなぜ増減したのか。
大場教授は「マグマ性ガスが地下に溜まり、その後目詰まりが解消したのでは」と分析する。たとえば温泉配湯管を使い続けると管の内側に湯の花がこびり付くように、地下のマグマ性ガスの通り道も鉱物などの粒子で詰まった可能性がある。それでも奥底からのマグマ性ガスは止まない。大きな殻で覆われるように圧力が高まるものの、ある時目詰まりが解消する。再びガスは地表を目指して岩石と岩石との隙間に行きわたり、地中の構造を動かして群発地震を生む、という見方だ。
火山活動といえば昨年の噴火が注目されがちだが、大場教授は2013年秋の群発地震についても指摘する。大きな報道こそなかったが、前ぶれのように重水素が減り、地震とともに増える「V字」があった。それはまるで大地が息をとめ、再び吐き出すようにも見てとれる。
前ぶれなのか アルゴンの動き
大場教授は2つの成分とは別に、群発地震(昨年春)前に増えた「アルゴン」の数値にも注目している。普段は大気中にあるべき物質が、不思議なことに地中で増えた。「地下深くの目詰まりの影響で地上側がスッカラカンになり、大気中の成分を取り込んだのかも」と大場教授はみる。はたしてアルゴンの動きは「前ぶれ」なのか。
データを積み上げればそれらは指標の一種となり、いつかは噴火予知につながるかもしれない。数値は一定ではなく、今年に入ってからもある程度の上下はあった。しかし「小さな変化を見つけてもそれが続くとは限らない。軽はずみに言えず、時点でどう判断すべきか難しい」と慎重だ。