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箱根・湯河原・真鶴 人物風土記

公開日:2016.10.21

先月、芦ノ湖漁協の組合長になった
福井 達也さん
箱根町箱根在住 44歳

芦ノ湖に恩返し

 ○…ヒメマスの卵を器の中で受精させる。命の授業の先生役を5年前から担当してきた。小学生に「命が生まれる神聖な作業からね」と念を押し、魚を手にもつ姿は医師のよう。漁協が担うこの授業は数十年の歴史があり、自身も小学生の頃に受精の様子を見せてもらった思い出がある。「意外と知られていない湖の素晴らしさを知ってほしい。あと、今までの歴史もね」

 ○…箱小、明星中の卒業生。小さい頃の遊びといえば湖で泳ぐこと。当時は宿泊施設や住宅から湖に生温かい排水が流れ込み、潜ると先が見通せなかった。その後合成洗剤の排除運動などに取り組んだのが、芦ノ湖漁協だ。浄化槽の普及もあって、その後水質は劇的に向上してゆくことになる。小学生で水上スキーを始め、強靭な足腰で中学時代は下郡の陸上大会で優勝した事も。スポーツの名門・山北高に進むと陸上部の主将を務めた。インストラクターを目指して専門学校に入ったが、23歳で家業のボート貸出業を継いだ。

 ○…馴染み客はサクラマス狙いが多い。自身もこの魚に魅せられたひとりだ。「憧れですね。野生のフォルムで色もきれい、寿司にしても美味い…」と、うっとり。もちろん楽しい事ばかりではない。北西の風が吹くと緊張が走る。祖父の代から「富士おろし」と恐れられ、桟橋をも壊す大きな波を湖面に発生させる。帰宅すれば2人の子の父で趣味は親子でのプラモ作りやルアー作り。エアブラシなども取り揃えて貝や木などを削っていたが、ここ数年は多忙で封印。酒が唯一の楽しみになったところで、今度は痛風がやってきた。

 ○…先月下旬、組合長を継いだ。常に念頭にあるのは先々代・大場組合長(故人)の姿。遠く離れた湖の漁協と芦ノ湖との縁を結び、魚卵の融通など助け合いも多い。「沢山教えてくれたんです」。滅私の時間が増えたぶん、視界はぐっと広がった。この一言は眼前の湖にも向けられている。

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