総務大臣表彰を受けた「湯河原録音奉仕会」で代表を務める 室伏由美子さん 湯河原町宮上在住
ありのまま 伝えて39年
○…宮下会館内の一角に、赤く光る「録音中」の表示。その扉の向こうには録音奉仕会が歩んできた約40年の歴史がある。戸棚には録りためたカセットテープがぎっしり。視覚障がい者である『テープ読者』は高齢者が多いため、今もCDやパソコンは使っていない。町の広報や小説など、読者のリクエストに応えてさまざまなジャンルを読んできた。昔は湯河原温泉では多くの視覚障がい者がマッサージの仕事に携わっていたため『読者』も多かった。今の課題は、読者と録音する側の高齢化。奉仕会の内部では、お互いの年齢を語らないのがお約束だ。
○…出身は富士川が流れる山梨県・南部町。小学生の頃は祖母に連れられて近くの古刹、日蓮宗総本山・久遠寺に出かけては「お祖師さん」(日蓮)の生涯を描いた絵の前で、祖母の解説を聞くのが常だった。身延高校時代は演劇部員、家庭をもってからは読書会員。語りにちなんだ経験が、今の録音奉仕活動を紡いでいるのかもしれない。みかん農家だった夫・美幸さん(故人)と結婚し、湯河原に移った時は温泉の質に感激したという。二人で建てた家は、家事がしやすいよう台所の蛇口からも温泉が出る。「切り傷も治りが早いの」と目を大きくした。玄関には今も美幸さんの表札を掲げている。
○…録音の日は町を歩きながら「アエイウエオ…」と発音練習するのが習慣。花火大会や観光イベントも『読者』に伝えるため、マイク持って駆けつける。来場者の生の声を録り集め、みずからも語る。「綺麗」「素敵」といったありきたりの言葉は避け、ありのままを伝えるのがこだわり。冬を伝える時は氷柱の長さを、紅葉であれば葉の大きさ、色や落ち方もそれぞれ。時折、犬の吠える声や物音が混ざってもあえて録り直さない。「それが面白い、という人が多いから」。聴いていると情景が浮かぶように――長年の目標はいつも目を閉じた先にある。
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