箱根・湯河原・真鶴 人物風土記
公開日:2019.02.22
箱根温泉おかみの会会長を務める
吉田 幸恵さん
箱根町湯本在住 61歳
困った時こそ明るく灯る
○…箱根の名だたる旅館の女将たちによる「女将の会」を引き継いだのは、2015年春。ほぼ同時期に大涌谷が噴火し、温泉街から人影が消えた。「どうしようという状態でしたが、先を心配して女将が暗くなってはいけない。仲間同士の結束は深まりました」。風評被害の中でも足を運んでくれたお客さんを、全力でもてなした。
○…実家は小田原市浜町にある創業100年以上の老舗蒲鉾店。折箱店や印刷店も軒を連ねる「街じゅう忙しい」職人街に育つ。店頭に並ぶ白い蒲鉾はめったに口にできず、魚の骨やあらなども混ぜて作った「すじぼこ」の味が懐かしい。城内高校、青山学院大を卒業後、お見合いで湯本の旅館「玉庭」に嫁いだ。先代の女将が教えてくれたのは深いお辞儀の仕方から、庭に生える苔の種類まで。「育て直してもらったようなものです」。
○…多忙の日々の合間に空き時間ができると、趣味で誰かにお茶を立てたり、庭掃除をしながら庭木のつぼみを見つけたりと、つまり年中仕事をしている。母として男の子2人を育てた。あえて「勉強しなさい」と言わずにいたところ、兄弟で教え合うようになり、その後2人とも医師になった。夫の知司さんも整形外科医で、診察代わりに腰を押してくれる。
○…会では親睦を兼ねておもてなしを磨く講座を開いてきた。御礼状を書くときに役立つ絵手紙講座、タンスに眠る着物を使った帯アート作り、火山を擁する観光地ならではの防災講習も。最近は女将のいる宿が減りつつある。外国人観光客が増え、会話の際にスマホの翻訳機能も駆使するようになった。確かなのは、おもてなしの本質は変わらないという事。モットーは「笑門来福」。女将の笑顔は逆風にも負けず、今を照らしている。
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