1927年(昭和2年)から、約90年に渡り営業を続けてきた小机駅近くにある「藤の湯」が8月31日、閉店した。区内はもとより、市内でも最古の1つに数えられる銭湯が姿を消すことになり、長年通い続けた地域住民からは惜しむ声が上がっている。
「藤の湯」は、経営をしていた田野三男さん(68)の両親である、清三郎さんとハツさん夫婦が創業。趣のある建物とペンキ塗りの富士山の絵、敷地内から汲み上げた井戸水を薪で沸かした滑らかなお湯が特徴で、利用客から長年に渡って愛されてきた。
亡母が切り盛り
清三郎さんとハツさんは共に新潟県出身。ハツさんが就職のため上京、銭湯で働いていたため、その経験を生かす形で結婚後「藤の湯」を始めた。
最盛期は高度経済成長期直前、内風呂がまだ一般化されていなかった時代。午後3時の開店と同時に湯船は人でいっぱいになった。早い時間帯は、夕飯の支度をする前の乳幼児を連れた母親が、遅い時間帯は、晩酌を終えた父親が汗を流す姿が多く見られたという。
三男さんの姉の竹下清子さん(72)は「一時はお母さんが入浴している間、お子さんの面倒を見るためだけの人を雇っていたんですよ」と当時を懐かしむ。
中心になって切り盛りしていたハツさんは、2007年に98歳で亡くなる。その2年前まで番台に上がり、客と会話を楽しんでいた。それを目当てに訪れる人も多かったという。
しかし、時代の移り変わりと共に内風呂化が進み、それに伴うように客足は段々と遠のき、いよいよ閉店となった。建物は今月中に取り壊しが始まるという。清子さんは「閉店のお知らせをしたら、沢山のお客さんが名残を惜しんで来て下さった。母親は悲しんでいるでしょうが、仕方ないですね」と話す。
鳥山町在住で8歳からほぼ毎日通っていたという名古屋可おるさん(82)は「ハツさんとは旧知の間柄でした。子どもの頃からのお付き合いで本当に寂しい。いいお湯で、これからどこに行ったらいいか」と声を落とした。
港北区・緑区浴場協同組合の山口繁支部長は「建物の老朽化、経営者の高齢化は私たち銭湯業界の大きな課題といえる。時代の流れとはいえ、伝統ある「藤の湯」さんの閉店は大変残念だ」と話した。
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