「カン、カン…」。夜9時ごろになると、拍子木の澄んだ音が響き渡る。
10年ほど前から拍子木を手に、夜回りパトロールを続けている「カンカンのおじさん」こと工藤多七郎さん(71)=上白根町。地元でも名物になっているこの活動は、土日や祝日、雨天の日などを除き日課になっている。誘導灯や懐中電灯を持ち、十数年前から1人でパトロールを始めたのが活動のきっかけだ。
寒い冬でも「今日も無事だったと思えればいい。運動不足の解消にもなるし、趣味みたいなもの」と笑う。拍子木の音がすると、地元に住む人は「9時だ」と思うほど。「いつも回ってくれているというだけで、すごく安心する。あのカンカンという音は、どこか懐かしい」。近所に住む武田武さん(46)は、そう話す。
拍子木のほか、倒れている人を運ぶためのひもや、首から下げる防犯パトロールのカードを持ち歩く。以前、公衆トイレで倒れていた女性を自宅まで運んだことも。路上にしゃがみこんでいる高校生くらいの若者集団には「こんばんは」と声をかけ続けていたら、ある日「おじさん、たたかせてよ」と心を開いてくれた。内心は恐いとも思いつつ、「自分にできることをやるだけ。おおげさなことじゃない」と気負いはない。
「音は日によって違う。湿度が高いと重たい音になる」。面と面で打つと「ビタン」という音になるが、点を意識して打つと弾んだ響く音が鳴るという。「脇を軽く締めて、ポーンと弾ませないといい音は出ない」。愛用していた拍子木は、廃材屋で見つけたテーブルの脚を材料にした自作品だった。目標は大相撲の土俵入りなどで打ち鳴らされている、あの高い音だ。
半年ほど前から、朝も登校する児童を見守るようになった。市立今宿小学校に借りた旗を手に、信号のない横断歩道などに立つ。沿道には花を植え、そっと育てている。「余計なおせっかいおじさんだから」。明るい笑い声が響き渡った。
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