著・徳冨蘆花(「自然と人生」岩波文庫) 物語でめぐるわが街 文・協力/金沢図書館『沙濱の潮干』
徳冨蘆花は明治から大正期の文学者です。20代後半から4年弱の間逗子に住み、その頃書いた自然観察などエッセイ風の小品その他をまとめて1900(明治33)年に刊行されたのがこの『自然と人生』です。この中の千二百字ほどの短文「沙濱の潮干」に、金沢の牡丹を見た帰りに寄った、野島から夏島にかけての砂浜の風景が描かれています。
美しく広がる砂浜に青い海、蟹が走りハゼが泳ぎ、あさり、蛤、マテ貝など様々な貝がとれる豊かな浜で、手拭いをかぶり裸足になって、歌を歌ったりおしゃべりをしたりしながら貝を採る地元の人びとの風景は、場所は異なりますが現在の海の公園の潮干狩りの光景につながります。
以下抜粋です。「見渡せば、砂は恰(あだか)も一大盤(だいばん)をなし、其の周圍(しうゐ)には碧海(へきかい)宛(さな)がら帯の如く盤(はん)を繞(めぐ)り、碧色(へきしょく)の遠山(とをやま)また條(リボン)の如く海を限る。盤上は薄紫の砂にして、處々(しょ〳〵)の残溜浅(ざんりふあさ)ふして踵(きびす)をぬらさず」「長閑(のどか)なる哉(かな)、海遠(うみとを)うして細く、帆いよ〳〵細く、山遠(やまとを)うして碧(あを)く、雲ありていよ〳〵碧し」
文章は古文調で少し読みにくいですが、それゆえの独特のリズム感がありますので、風光明媚な情景の描写を楽しんで読んでみてはいかがでしょうか。
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