その押印、本当に必要なのだろうか--。河野太郎行政改革担当相が全省庁に行政手続きで印鑑を使用しないよう求めたことや、事務作業の効率化、さらにコロナ禍で対面でのやりとりが見直される中、全国の自治体で「脱ハンコ」の動きが進んでいる。これを受け相模原市では、全国的に珍しい「有志職員によるプロジェクトチーム」が発足。昨年10月から「脱ハンコ」の検討を進めている。
庁内公募で集まったのは、年齢や所属課も異なる15人。リーダーの新倉亜弥香さん（情報政策課）が「市民の負担減、職員の作業効率向上のための手始めとして押印制度の見直しが必要」というように、皆「既存のやり方を変えたい」と集まってきた職員たちだ。
11月には、市民が行う行政手続きで国の法令による押印義務がない１７６５書類の調査が終了（うち７件は職員間で行う庁内手続き)。８割以上に当たる１４９９件について、社会状況の変化により押印の必要性がないと判断し、本村賢太郎市長に報告した。これを受け市は、今年１月末を目安にそれらの押印廃止を決定するなど、かつてないほどのスピード感をもって進められた。押印不要と判断された書類の中には、生活保護者の医療券に関する申請書（年間延べ約20万件の申請があった）、児童手当に関する申請書（同６万件）高額医療費に関する申請書（同４万件）などがある。情報公開課の担当者は「元々本人確認のための押印だが、今は認印など誰でも入手しやすく、意味が薄れていた。時代の変化による判断だが、市民・職員双方にとっては負担が軽減される」と話している。押印廃止について生活保護関係の手続きを行う生活支援課の担当者は、「一部の書類に関して今まではハンコ漏れがあると相手に電話をかけていたので、その手間が省けるのでは」と予想する。本人確認は別途身分証の提示などによりカバーし、今回廃止に至らなかった２６６件については、押印に代わる代替措置の検討や、法令改廃をまっての議論となるという。
次目指すは”脱来所”
同チームが次にメスを入れたのは、「来所」そのものだ。同チームは昨年10月に市民アンケートを実施。４７３人の回答から、「仕事や持病などで市役所に行くこと自体が大変」「待ち時間が長い」「申請で用意するものが多い」など現状の市役所への不満を目の当たりにした。その声を元に、12月に本村市長への第２回報告会を実施。オンラインシステムを構築し、「申請のためにわざわざ行かなくてもいい市役所（脱来所）」を『５年後の目指す姿』とすることなどを提言した。あらゆる手続きがスマホなどで行えるポータルサイトを整え、ワンステップで完結する仕組みを作ることで、来所が難しい市民はオンライン申請、窓口対応を求める市民や対面確認が必要な申請は従来通り窓口で対応するというものだ。
報告会では、対面対応だった申請の一部オンライン化に成功している石川県加賀市や兵庫県三田市の例を紹介。相模原市でも「脱ハンコ」の延長線上にある理想の姿として、実現の道筋を市長にプレゼンした。提言を受けた市長は、「すぐにできる部分と時間がかかる部分がある」とした上で、「市長として各部局に協力を求める」と総括した。役目を終えたプロジェクトチームは今月末で解散となるが、情報公開課によると「今回の提言を実現するため、新しい部署の設立を前向きに検討する」という。
脱ハンコに脱来所、役所の内外を巻き込んだ「慣行への挑戦」はまだ始まったばかりだ。
「脱ハンコ」案などについて市長にプレゼンしたプロジェクトチームの職員たち
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