八王子 社会
公開日:2025.08.14
疎開先の温かな思い出
78年ぶりの再会
足立区出身の石井郁子さん(90)は、小学3年生だった1944(昭和19)年から翌年の終戦まで集団疎開で長野県の善光寺で暮らした。尊勝院という宿坊で寝起きし、近隣の学校で地元の子どもたちと授業を受けた。
家族のいない寂しさをぐっと我慢していたが、疎開から1週間ほどたった夜、とうとう布団の中でシクシクと泣き出してしまった。「『お国のために戦っている兵隊さんたちがいるのに、自分たちが泣いてはいけない』と教わっていた。でも最年少だった自分が泣いてしまったら、それをきっかけにみんな一斉に泣き出して大騒ぎになった」。寮母や教員、宿坊の住職らがあわててなだめに来てくれたという。「思えば宿坊では住職の家族と分け隔てなく遇されて、食事も同じものを食べさせてもらっていた」と振り返る。
戦争が終わり東京に帰った後、結婚を機に八王子へ移り住んだ。当時を思い出すこともほとんどなくなっていた2023年、善光寺を紹介するテレビ番組に映っていた僧侶に記憶を呼び起こされた。
それは当時一緒に暮らした住職の子どもで、現在は自身も住職を子どもに引き継いでいた。懐かしさから78年ぶりに連絡を取った石井さんを住職一家は当時と変わらない温かさで出迎え、思い出話などに花を咲かせたという。「戦争は悲惨な話も多いけれど、こんな温かな思い出もあるのよ」とほほ笑んだ。
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