八王子 コラム
公開日:2026.02.12
―連載小説・松姫 夕映えの記―
第5回 作者/前野 博
(前回からのつづき)
それを見て姫君達がクスクスと笑っている。おキミは天正十年(一五八二)、信松尼達が甲斐の国から必死の思いで逃亡し、ようやくたどり着いた上案下の金照庵で生まれた、栄吉とお梅の子どもであった。あれから八年が過ぎた。姫君達も十二歳になろうとしている。
「さあ出発しましょう」
石黒八兵衛の声が城下の町に響いた。町は閑散として静かであった。三月までは市が立ち人の出入りも多く町は活気があった。豊臣軍の関東侵攻が始まると戦乱を恐れた人々は町から離れたり、総構えの八王子城城内に商いの場所を移して行った。
おだわら道は城下の大通りを横切り横山口の南木戸に向かう。
「信松尼様、あの左の丘が月夜峰です」
お梅が指をさした。
「あそこが月夜峰なのですね。比佐の方様からお話をうかがったことがあります。氏照様と良く月見の宴を開いたそうですね。氏照様が横笛を吹き比佐の方様が琴を弾いたと楽しそうに話していました」
比佐の方とは北条氏照の正室であり、心源院で暮らす上において信松尼は多大な援助を受けていた。栄吉、お梅の夫婦も比佐の方の世話になっていた。八王子城に栄吉達夫婦が残るのも比佐の方を何としてでも守らねばとの気持ちからであった。更に信松尼の比佐の方を気遣う心を感じ取り栄吉、お梅はその意志を固くしていた。
「比佐の方様は必ずお守り致します」
お梅が強く言い切った。
「皆元気に会える日が来ると思います。お梅や、おキミのことは安心して任せて下さい。誰よりもおキミがお梅と栄吉を待っているのですからね。無理をしてはいけませんよ。しばらくのお別れです。また会いましょう」
信松尼はお梅からおキミを受け取りしっかり手を繋いだ。栄吉のおかげで信松尼は何度も危機を逃れることができた。
〈続〉
◇このコーナーでは、揺籃社(追分町)から出版された前野博著「松姫 夕映えの記」を不定期連載しています。
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