海老名むかしばなし 第33話 法塔様【1】
慶応二年(一八六六)十二月十九日の夜のことであった。国分の龍峰寺に一人の盗賊がこっそり忍び込んだ。同寺が現在の清水寺公園に移転する前、今の海老名中学校のところにあった時のことである。目ざとい和尚さんに気付かれ、家人にも騒がれ、賊は一物も盗まず寺内にひそみ、逃げる機会をうかがっていた。
当時の寺は人別帳を持ち、往来手形を発行するような格式の高かった時代であるから、スワッ主家の一大事とばかり村中挙げての大捕物となってしまった。
寺の付近は提灯が右往左往に揺れ動いていたが海老名耕地への出口の人々は、犯人が逃げて来るとすれば、きっとこの方面に違いないと今の中学校の運動場の土手下の桑畑の中で張り番していた。
この考えはぴたりと図に当り果たしてあの土手を一目散に飛び降りて来たからたまらない。どっとばかり押さえ込まれ、捕えられてしまった。
その後は犯人を辻の高札場(法令などを書いた板を立てた場所)の柱にしばりつけておいて、名主、百姓代、組頭の村方三役はその善後策を協議した。普通の農家へ入ったのではなく祖霊まします寺へ入るとは不届き至極、その罪は許し難い、と最高刑とすることに一決した。
そうして翌朝、犯人に向かって「お前の罪は許してやるから再び国分の地を踏むな。ついてはお前の追放を確かめるために村境までおくってやる」と言い渡した。
参考資料/えびなむかしばなし
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