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綾瀬 コラム

公開日:2019.07.12

連載
路線バスっておもしろい!
第10 回 返事をするお客様 路線バス運転士 坂井昭彦

 乗客が少ない陽気がいいお昼時の運行は、ほんわかした雰囲気になります。そんな陽気のいいお昼頃に、ちょっと奇妙な事が起きました。



 それは始発のバス停で六十ぐらいの女性のお客様が、一人、乗車された時のことです。



 発車時間になったのでバスの扉を閉め、発車しようとした時、マイクで「発車します」とアナウンスしたところ、そのお客様が「はい」と返事をしたのです。



 「ん?」と思いつつもその後、「この先、右へ曲がります。ご注意下さい」とアナウンスしたところ、またそのお客様が「はーい」と返事をしてきたのです。



 お客様は一人しかおらず私のアナウンスが、そのお客様に対して行われているんだと思ったのでしょうね。



 だから返事をしないと悪い、と思われたのか、私がアナウンスをするたびにわざわざ返事をしてくれるのです。



 私たちはお客様が一人でもいる限り、注意喚起や接遇をしますが、それに対して返事を求めているわけではありませんので、返事をされると、どことなく変な感じです。



 でもその時はおもしろかったので、減速して信号で止まるときも「停車します」とアナウンスしてみたところ、お客様はまた「はーい」と答えていました。



 それからは「発車します」「はい」、「左へ曲がります」「はい」、「揺れますのでご注意ください」「はーい」と言った具合に、私は笑いをこらえながらアナウンスを続けました。



 そうこうしながら始発バス停から三つ目のバス停に着いたとき、他のお客様が乗ってきました。その途端、さっきまで返事をしてくれたお客様が返事をするのをやめてしまったのです。



 「あー、せっかく楽しかったのに…」



 でも、こういった素直な?お客様もいらっしゃるのですね。少しの間だけ愉快な気分にさせて頂きました。



 またのご乗車をお待ちしております。

 

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