連載 路線バスっておもしろい! 第19回 車椅子のお客様 路線バス運転士 坂井昭彦
最近、車椅子のお客様が増えてきました。今の路線バスのほとんどが車椅子に対応できますし、ノンステップバスが増えたことで乗りやすくなったからです。また障害者手帳をお持ちですと、乗車料金が割引になりますので利用者が増えつつあります。なかにはスポーツ用車椅子(バスケットボールなどの競技用だと思われます)で、乗車されるお客様もいらっしゃいます。
この車椅子は、介助者が車椅子を握る取っ手がなく、どうやって後ろから押してバスにお乗せしようかと思っていたらスロープを出したとたん、お客様自身が車椅子の小さな前輪を宙にあげ、つまりバイクでいうとウィリーといいますが、後輪のみでお客様が腕の力だけ使い車椅子の車輪を回し乗車される姿を見たときは、びっくりしました。降りる時も後ろ向きでゆっくりと腕の力だけでブレーキをかけながら降りて行きました。さすがスポーツ用車椅子に乗っているだけのことはあると感心したのは私だけでしょうか。
また休憩室での同僚との会話で、救急車などで使うストレッチャー(車輪の付いた移動できる小型ベッドのようなもの)ごとバスにお乗せしたことがあるよと聞いたときは、自分の耳を疑いました。彼の話によると夜8時頃、霧雨が降るなかバス停でストレッチャーに人が横たわり、付添いの人が2人いたそうです。バスの扉を開けると乗せてほしいと言われ「無理です」とお断りしたところ、どうしても乗せてほしいと困った様子でお願いされたので乗せてしまったそうです。
「えっ、そんな事ってあるの?」と彼に問いかけましたが、彼いわく「うそじゃないよ、ほんとうだよ、だってその人たちほんとうに困っていたみたいだから、とっさの判断で乗せちゃいましたよ」と明るく言っているのを見て、開いた口が塞がらなかったです。皆さんならどうしますか?この時の運転士が自分だったら。
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