古い民家や入り組んだ谷戸にある空き家―。これを活用して、「集いの拠点」を創出する例が増えている。建物の趣や構造を活かした再生、若者のコミュニティ拠点創出など、人とのつながりから、新たな出会いが生まれている。三浦半島地域の取り組みの事例を紹介する。
「壊すのは一瞬」
市内初声町和田、国道134号線沿いに蔵を再生したカフェがある。オーナーの三崎由湖(ゆみ)さんは都内在住で、趣味のヨットを楽しむため、10年以上前から定期的に三浦を訪れていた。その道すがら、廃屋と化した1軒の蔵の存在がいつも気になっていたという。「何かできないか」。保存・活用法に思いをめぐらせていたある時、「地続きの敷地はすでに買い手がつき、この蔵だけが残されているようだ」と知人から知らされた。「行動があと2〜3日遅かったらすべてなくなっていた」。建屋1階の一部ではすでに解体作業が始まっており、なかに保管されていた年代物の品もろとも、壊されようとしているところを間一髪で購入した。
さまざまな活用法が浮かんだなかで選んだのは、自身が愛してやまない車をコンセプトにしたカフェ。自宅と三浦を往復して続けたリノベーションは約2年を要し、昨年5月にオープン。再び輝きを取り戻した蔵に、三崎さんは「リバイバル(「再生」の意)カフェ」と名づけた。
◇ ◇ ◇
大きな商家が建てた蔵というだけあって、築90年以上が経過した今も泰然とした佇まいで、当時の職人たちの丁寧な仕事ぶりが伺える。建材にはアカマツの梁、柱、佐島石などが使われ、内部を見た地元の大工が「これは立派なもの」と太鼓判を押したほど。三崎さんは「職人の勘や知恵が詰まっていて、ハンドメイドならではの魅力がある」と話す。
近年では維持管理の費用や手間、法令・条例の規制を理由に古い建物の建て替えや解体が進んでいる。現代建築とは違い、洗練されているわけでもなく、以前はしごだった階段は傾斜が急で、時には壁の隙間から虫が入ることだってある。「それでも時間やお金をかけても残す価値があると思う」
3年前の解体工事から守った火鉢や樽、板ガラス、タンス、一枚ものの階段板などはすべてキレイに磨き上げられ、店内のインテリアとして再利用。空間演出に一役買っている。
集い、くつろぐ蔵に
リノベーション工事は、趣味仲間やその友人たちの協力なくして成功しなかった。当初は工務店への依頼も考えていたが、双方の完成イメージが相容れることはなく「ならば自分でやろう」と一念発起。当然技術も知識もなかったが、周囲のサポートを受けながら一つずつクリアしていった。
その甲斐あって、生まれ変わった姿を見た元の持ち主はとても喜んでくれたという。また、蔵を通じて出会った人たちは折に触れて店の様子を気にかけてくれ、先月は関係者を招いた餅つき大会を開くなどコミュニティが育ち始めている。
◇ ◇ ◇
同店の特徴は、シニア層や男性客が比較的多いこと。「なんだか落ち着く」「ゆっくりしたくなる」と、近隣住民や遠方から集まった車好きは、コーヒーや地元農家から仕入れた三浦野菜をふんだんに使ったランチなどを楽しみながら、各々くつろぎの時間を過ごす。
三崎さんは「物を大切にする大切さや地域の風土を子どもたちにも伝えることができたら」と新たな出会いに胸を膨らませた。
三浦版のトップニュース最新6件
|
|
|
|
|
|