農水産業が基幹産業の三浦市に昨年5月、地魚地野菜に続けと、新たな地場産品が生まれた。その名も「みうらみるく」。発売以来、「牛乳本来の味わいが楽しめる」と徐々に人気を広げている。品質維持、販路拡大や認知度向上など、一歩一歩取り組む”地ミルク”の生産現場を取材した。
「みうらみるく」を手掛けるのは、葉山牛の畜産・食肉卸業などを展開する株式会社コーシン(横須賀市)。経営の多角化をめざし、市内金田の丘の上にある自社牧場「コーシンファーム」で、昨春から乳牛の飼育を始めた。一般的に牛は暑さに弱いが、海からの風がほどよく抜ける丘陵地であることも奏功。牧場長の伊藤和彦さんとスタッフの松田芽生さんを中心に、5頭のホルスタイン種を育てており、1頭あたり朝夕合わせて約20リットルを搾乳している。
こだわりの製法
これまで葉山牛の生産事業者として多くのノウハウを蓄積してきた同社だが、「良質な牛肉を生産するための肥育と乳牛の飼育は異なる部分も多い」と伊藤さんは話す。
配合飼料を減らし、本来牛が主食とする牧草を与えることで、より生乳に近い味わいを実現。乳脂肪率の高さや生産量増大にとらわれることなく、なるべく自然に近い形で育てようと試行錯誤を重ねる。
”牛乳本来の味”へのこだわりは製造工程にもある。約65度で30分殺菌する「低温殺菌処理」と、牛乳中の脂肪分を均一化(ホモジナイズ)しない「ノンホモ牛乳」を採用。超高温処理(130度前後で1〜3秒)の市販品と比べ、優しくすっきりとした甘さが特徴だ。伊藤さんによると「牛乳嫌いな人が言う”牛乳くささ”は、高温殺菌によるたんぱく質などの焦げが原因。そのため、低温殺菌のみうらみるくは臭みのない飲みやすさが売り」。加熱調理には不向きだが、「シリアルや生菓子製造などに相性が良い」という。
若き畜産家
牛が好きで、畜産にかかわる仕事がしたいと2018年に入社した松田さんは現在21歳。牛舎の掃除や餌やり、搾乳など様々な力作業を毎日タフにこなす。出産にも立ち会って子牛を取り上げること数回。「おかげで筋肉がついた」と笑みをこぼす。みうらみるくは家族からも好評だと言い、「おいしい」の一言がやりがいに繋がっているという。
加工品に意欲
販売開始から約8カ月が経過。目下の目標は「地元での認知度向上」だ。消費期限が短いことから長距離輸送には適さず、地産地消が理想。現在の販路は、三浦・横須賀にある農産物直売所や自社店舗のみ。すでにソフトクリームの販売も展開しているが、さらなる加工品製造も視野に入れる。「将来的には地元の食品製造事業者や飲食店との連携、学校給食で地元の子どもたちに飲んでもらえたら」と2人は意欲を見せた。今年は丑年。「ぜひ、たくさんの人にみうらみるくを飲んでほしい」
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うらりマルシェやさい館のほか、すかなごっそ(横須賀市長井)、コースカベイサイドストアーズ(汐入駅そば)などで購入可能。価格(各税込)は200ミリリットル220円、900ミリリットル650円=右写真。