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公開日:2023.01.01

新春特別鼎談
"海業"日本一の三浦へ

 "海業"――。漁業・水産業を核に商業、観光、工業といった様々な分野を結び付け、複合的な産業を生み出すことを指す言葉。昨年3月には、水産庁の「水産基本計画」「漁港漁場整備長期計画」に海業の概念が採用された。これを契機と捉え、地元三浦で、海業の推進に注力する三浦市長・吉田英男氏、衆議院議員・小泉進次郎氏、みうら漁業協同組合長・鈴木清氏に、海業の誕生から現在、未来に向けた展望などを大いに語り合ってもらった。

"海業"に再び脚光

 ――海業の誕生と市が行ってきた取組は。

 吉田 海業は、1985年当時の三浦市長・久野隆作氏による造語。漁業を取り巻く環境が厳しくなる中、レジャーと手を組む可能性なども含めて変えていかなければ、という強い思いから提唱されました。大きな取組としては、海業の名を冠した(株)三浦海業公社による「うらり」の建設・運営と、現在進行している二町谷地区の海業振興を目指す用地利活用プロジェクトがあります。

 ――20周年を迎えたうらりは、主にどんな役割を果たしていますか。

 吉田 観光地である三崎下町地区を代表する拠点施設です。その周辺では水中観光船や渡船の運行、ゲストバース整備等が行われており、海業の中の観光分野で中心的な役割を担っています。

 ――二町谷地区埋立地開発の経緯と目的は。

 吉田 水産物流通加工業務団地の形成を目的に、96年から埋立、2007年に分譲を開始しましたが、13年に進出企業が1社のみで、遊休化した状態が続いていました。そこで14年、企業誘致を三浦市最大の課題と位置づけ、これを命題とする市長室を設置。国県等の関係機関との協議を経て、16年に海業をコンセプトとした事業者募集をスタートさせました。募集要項には「漁港の多目的利用を視野に入れ、水産業、海洋性レクリエーションを含む海業拠点地区として6次経済のコンセプト実現を目指す」と記載しています。19年には国家戦略特区制度を活用し、二町谷埋立地の地区計画を変更。ホテル等による富裕層をターゲットとした国際的な経済活動の拠点形成を目指しました。

 ――小泉議員は、⾃⺠党⽔産政策推進議員協議会内に昨年発足された海業振興専⾨部会の部会⻑を務めていますが、その経緯を教えて下さい。

 小泉 これからの時代、海業は国の一つの柱になるという話し合いが協議会の場でありました。それには水産関係だけではなく、他の役所や観光など様々な民間のプレイヤーも巻き込まなければなりません。部会は主に若手で構成しており、海業発祥の地である三浦が私の選出区でもあったことから部会長に選ばれました。

 ――部会の会合では、⺠間や⾃治体から課題を聞き取り、提⾔をまとめるそうですが、どんな意⾒が出ていますか。

 小泉 例えばブリ養殖日本一の町で知られる鹿児島県長島町の町長からは、国立公園と近い漁港があり、2つが連携して海業を盛り上げるため、環境省との調整も必要だという声もありました。水産庁だけではなく、各省庁とも連携していかなければならないということを改めて感じました。また全国で大きな漁港と位置づけられている特定第3種漁港の市長協議会の会長は宮城県気仙沼市の市長でしたが、今年から吉田市長が務めることになり、三浦で全国13港の代表が集まる会合をできないか、という話も出ています。

 ――⽔産庁の漁港漁場整備⻑期計画では、今後5年間で新たな海業の取組を概ね500件展開するという⽬標が設定されています。達成させるポイントは。

 小泉 うまく推進力を加速させ続けていけば、目標達成も夢ではありません。水産庁が明確に数値目標を掲げたことがポイント。達成できなかった時のことを考えて役所はそれを恐れる傾向にありますが、ここまで意欲的な目標を掲げたことは、国の本気度を表していると思います。

 ――漁業を取り巻く環境には水産資源の枯渇や人材不足があるようですが、現状は。

 鈴木 これからの日本全体の漁業に危機感を抱いています。高齢化が進み、担い手不足が大きな問題。人が減ったからといって、ただ合併するだけでは漁協の経営は成り立ちません。そこで大事になるのが海業。組合用地の土地利用に、荷揚げ場や冷蔵庫を作るだけではなく、釣り客が利用する駐車場計画など今までにない枠を広げ、収入を得られるよう、時代に沿った事業に少しずつ切り替えていかなければと考えています。

 吉田 すでに松輪の港では駐車場の工事に入っています。市で整備し、組合が管理する仕組みで、地元の漁協との連携では第一号です。

多目的活用が鍵

 ――漁港の理想像は。

 吉田 漁業従事者の減少により、一部が遊休化した漁港施設等も存在します。これを見直し、漁港としての利用を生かしつつ、地域と協力しながら施設を活用することで、水産業振興や新しい産業の創出、その結果として雇用創出を目指す多目的活用が漁港活性化の鍵となります。例えば、漁協が直営の食堂を作るケースは全国的に広がっています。漁師しか使えない港を民間も活用できるように行政が支援していくことで、海業の発展に繋げていきたいです。

 小泉 港は国民の財産として作られています。活用できる形を考えるのが、政治と行政の責任。将来的なイメージとして過疎で衰退した浜が、海業によって復活したという言葉が出る未来に向かって、一つひとつ成功事例を作っていきたいです。また市民が今まで当たり前に見てきたことも海業なんだ、ということも行政の広報や政治家が発信していく必要があります。「みさきまぐろきっぷ」は、水産業と観光業、鉄道会社との連携ですし、私は「はまゆう」の金目の煮付けが大好きですが、これも漁協女性部の皆さんが食堂を開くことで、地域にお金が回るようになっています。実はこれも海業であることを市民に認識してもらうのが大事。「三浦は海業のまち」と誇れるように、松輪であればサバのモニュメントを作るなど、目に見える形の仕掛けも欲しいです。

 鈴木 昔は時季を待って獲る漁業でしたが、今は通用しない時代。金目だけサバだけではなく、サバがダメだったら金目・ムツ、それもダメだったらイカを獲ったり、漁師が加工場を作ったり、稼げる仕事であれば何でも手掛けてほしい、とよく漁師に言っています。魚が獲れず、港に船が浮かんでいるだけの状況は避けたいです。

 ――海業の概念を多くの人が理解することで、港町にとってどんな効果が生まれますか。

 吉田 三方を海に囲まれた本市が、海という素晴らしい資源を活用した海業に取り組むことは、ある意味必然であると考えます。海業の推進にとって恵まれた地域であることを市民と共有し、多くの皆さまの叡智によって新しい海業が生まれる可能性を高めていきたいです。そのような取組が全国の港町に広がれば嬉しく思います。

 ――海業の推進について市の役割とは。官民連携の重要性は。

 吉田 現在進行中の海業プロジェクトは、全国にある漁港の新たな活用法としてのリーディングケースとなると信じています。官民連携によって国際的な経済活動拠点を形成し、三浦に憧れを創るプロジェクトで、こうした取組は、財政力や事業の創造力などの視点から、市だけでは成しえない公民連携ならではの取組ですので、積極的に活用していきます。

若手育成に期待

 ――海業プロジェクトを進めるにあたって、教育やマリンレジャーを含めた今後の展望をお聞かせください。

 吉田 二町谷地区埋立地に立地した「日本さかな専門学校」は、海業プロジェクトにより立地しています。最大300フィートのスーパーヨットの停泊が可能な浮桟橋も整備済。これらの資源や三崎漁港等を最大限活用することで"海業日本一のまち"となることを目指していきたいです。

 小泉 三浦の子どもたちは海業について語れる、といった学校教育を進め、また地域の中にも自然体験ができる場も多くあり、こうした環境をフル活用してほしいです。全国どこでも「金太郎飴」のように平均的な人材を輩出する教育の時代は終わりました。三浦で三浦らしい子どもを育て、その子たちが専門的な知識を体得し、自分が持つ技術や知見を世のために活かせる一つの分野に海業がなりえます。

 吉田 市が進めている海洋教育に「海業」というワードを入れていこうと、来年度に向けて準備しています。概念自体を子どもの教育現場に馴染ませていくのは難しいので、まずはワードから浸透させていきたいです。

 小泉 海業の知名度を高める上で、さかなの学校の開校も大きなこと。今までにない教育の場で、全国から集まった若者が海業の理解を深めることを期待しています。

 ――海業の最終的なゴールとは。

 鈴木 海業に終わりはないと思っています。ただ浜に活気が出て、後継者が帰ってきてくれる状況になれば幸いです。

 小泉 儲かって持続可能な漁業を実現することです。日本は海に囲まれた島国。海洋資源の大切さなどを色々な方々に感じてもらいたいです。

 吉田 浜が元気になるヒントを提供できるくらい、三浦市が海業発祥の地として全国を牽引していくことが目標。今後も大小の海業の取組を創出しながら、海業の推進に取り組んでいきます。

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