古本が好きだ。年季の入った装丁や紙の質感、インクの香りもいい。今夏、畑が広がる菊名に、古本屋が開店したという情報を入手した。その名は「汀線」。居ても立っても居られず、鼻息荒く店舗での取材を試みた。
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店主は、北海道出身の村山敏朗さん(39)。通常はオンライン販売のみだが、自ら平屋を改修した8畳と4畳半ほどの店を月に1度だけ開ける。
村山さんが本にハマったのは高校時代、受験勉強をするため図書館に行ったものの、現実逃避の手段として本を手に取ったことが始まり。京都にある大学に進むと、安く購入できる古書店を巡るように。卒業後は、都内で校正職や美術館の学芸員助手などを行う傍ら、古本屋でも働いた。
その後、経済的な理由でWebデザインの仕事に就いたが、結婚し、娘も生まれた時、ふと「子育てするのに都会はしんどい」と地方での生活を選んだ。千葉など他にも候補はあったが、三崎に知り合いがいる友人について行くと「雰囲気の良い商店街に若者がいる。ここかな」と3年前、向ケ崎町に移り住んだ。
いざ暮らしてみると、文化施設が少なかったことから「ぼんやりといつか古本屋を出してみたい」と思っていた夢を叶えることにした。今や本はスマホで購入し、自宅に届く時代。全国の書店が消えゆく中で、あえて店を出した理由は「古本屋ではいつも意図しない出会いがある。情報は求めるものではない」と語り、「在庫が絶えず変化する一期一会な場で、読書は認識の境界線を常に変動させられる行為」と屋号を「汀線」とした。
蔵書を増やすため、現在は積極的に出張買取を展開している。「その人の歴史を垣間見られるのが醍醐味。この道40年以上のベテランでもよく分からない本もある」と顧客との交流に喜びを感じる。最近では、SNSを見た近所の人など、少しずつ店の存在を知られるようにもなった。「まずは続けていくことが目標」。好きなことに情熱を傾け続けていく。
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11月は22日(水)まで開店。写真家である妻の阿部明子さんによる作品も展示中だ。【所在地】南下浦町菊名493
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