鎌倉と源氏物語 〈第14回〉 後深草院二条は『源氏物語』の若紫
「武士の都」として知られる鎌倉ですが、『源氏物語』と深い関係があることはあまり知られていません。文化薫る歴史を辿ります。
『とはずがたり』の作者である二条は後深草院の寵愛を受けたため、「後深草院二条」と呼ばれています。
その『とはずがたり』は昭和になって発見された新しい古典です。あまりにも赤裸々に後深草院の後宮について書かれているため、世に出すのが憚られていたのでしょう。
二条の血筋は村上源氏で、高倉天皇に仕えた源通親の曾孫、太政大臣久我通光の孫。十分、妃として入内できる生まれでした。そのため『とはずがたり』にはどのような境遇になろうとプライドの失せない強い精神性を随所に垣間見ることができます。
二条は2歳で母と死別し、4歳で後深草院に引き取られて育ち、14歳で後宮の女性となります。後深草院が少年の頃、乳母だった二条の母に初恋の念を抱き、その思いを遂げるべく二条を引き取ったのでした。後深草院は、父帝の妃である藤壺に恋慕し、藤壺にそっくりな姪の少女若紫を引き取り育て、妻にした『源氏物語』の光源氏を模したのです。
これほど華やかに都の文化を体現して生きた二条の鎌倉下向。その最初は「化粧坂といふ山を越えて鎌倉の方を見れば」、京の東山から見るのと違ってごちゃごちゃと見苦しく見え、だんだん侘びしくなったそうです。現在、化粧坂から鎌倉の街並みは見られませんが、成就院山門前から由比ガ浜を望んだ光景がそれに近いのではと思っています。
織田百合子
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