今春、定時制を卒業した榑林(くればやし)幸子さん(34・小田原高)と山本有輝也さん(19・小田原城北工業高)が3月16日、小田原地区高等学校定時制教育振興会から就学精進生徒として表彰された。学業と仕事を両立し、実績が優秀だった生徒を表彰する制度。会長の加藤憲一市長は、「不断の努力に敬意を表したい」と称えた。
三度学び舎へ
榑林さんは中学時代に不登校を経験。いったんは高校へ進学するも人と接することを嫌い、1年で退学した。以来、約8年にわたる引きこもりが続いた。
しかし、そんな生活に危機感を覚えて精神科に通院。リハビリとして福祉施設で働くようになり、仲の良い友達もできた。飲食店でアルバイトも始め、芽生えた学業への思い。「中学生の頃、近所のお姉さんに勉強を教えてもらった。間違いだらけだったけれど、数学のドリルを一冊やり終えた達成感を思い出した」
さっそく、通信制高校の資料を請求。学費面で断念するもインターネットで定時制について調べ、小田原高校への受験を決めた。 31歳で始まった高校生活。クラスメートは、ひと回り以上年下で、「幸子さん」と慕われた。「学ぶほどニュースも分かるようになる。政治、経済、日本史、すべて興味深かった」。真摯に学び、「周囲との年齢差は気にならなかった」というが、「遠足の時、『おこづかいいくら持っていく』と聞かれた時はかわいいなあと思った」と笑う。
仕事と学業を両立し、生徒会も務めた高校生活に、「できるかぎりのことはやった」と晴れ晴れした表情。今後は服飾業界への就職をめざし、働きながら夜間の専門学校へ通う。担任の西山貴義教諭は、「いつ始めても遅いことはないと教えられた」と話した。
資格取得で自信
中学時代の成績はオール1だったことも。「とにかく勉強が苦手だった」という山本さん。全日制を希望しながら成績面で叶わず、なんとか定時制に滑り込んだ。
時間を持て余さないように始めたアルバイト。箱根のホテルでベッドメーキングや清掃の仕事に精を出した。宿泊客に接することもあり、「敬語の使い方の指導も厳しかった」。社会でもまれ、実感した勉強の大切さ。「将来のため、ここで変わらないといけない」
毎日午後1時半に仕事を終えると、始業2時間前に登校。担任の遠藤晋教諭に自ら教えを請い、小学校レベルから学び直した。「中学ではいつも逃げていた。でも、親身に教えてくれる先生、一緒に勉強する友達の存在で、勉強が楽しくなった」。懸命な努力の甲斐もあり、成績はトップクラスに。「将来に役立てば」と資格取得にも積極的に励み、電気工事士やボイラー技士、消防設備士など10種以上を取得した。
「数々の資格試験を突破して自信をつけた。どんな生徒も伸びしろはある」と遠藤教諭。「人生で一番充実していた」と振り返る高校生活を終え、山本さんは4月から大手企業でビル設備管理技士として働く。