都筑区 コラム
公開日:2019.09.12
大正末期〜昭和の北山田から 第33回
都筑区の歴史を紐解く
文・絵 男全冨雄(『望郷』から引用)
助教訓練【1】
二十年になると青年学校の教官が次々招集され、訓練をする指導員が不足してきたため、県下の学校から三名づつ助教訓練に本木の神奈川県錬成道場に入れられた。もちろん、完全武装で綱島まで歩き、東横線に乗ろうとしたら「ご苦労様です」と駅員に言われ、無料だった。ようやく本木に着いたら、八聖殿の側だった。
宿舎の前は海で、松並木が海岸にあり景色のよい所だが、毎日朝飯前に海岸に一列に並び、海にむかって号令訓練、いくら大きな声をだしても相手が海ではかなわない。
食事は飯ごうの蓋一杯のスイトン、三食とも腹がへってたまらなかった。
近所の生徒が、夜中に家に帰り薩摩芋を取ってくると密かに宿舎を出た。早く帰ればよいがと心配していたら、帰らぬうちに抜き打ちの非常呼集点呼があり、一名足らぬと、大変なさわぎになってしまった。全員で海岸を捜索させられたが、中には海軍の無線隊の中まで入り大目玉をくった。そのはず、無線隊には女子隊員が多いので、夜中ではまずかった。騒ぎが収まったころ薩摩芋を抱えて生徒が帰ってきた。相談の結果、薩摩芋を全部士官室へ提出することにして、本人が士官室から出るのを待ったら、笑顔で帰ってきた。「ご苦労」と言われ、叱られなかったようだ。
だが、腹はへりっぱなし、芋がうらめしかった。夜中に隠し持っていたアラレを布団をかぶり、音をたてないようにして食べた。時折、港にはいる病院船が海上を通ると全員浜辺に整列、御苦労様ということで捧げ銃で迎えた。 (つづく)
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