本牧 気まぐれ歴史散歩 56 『根岸が生んだ文豪吉川英治』
宮本武蔵をはじめ、数々の名作を残した作家、吉川英治。本名は吉川英次(ひでつぐ)といいます。
英次は現在の中区山元町で生まれたと考えられています。英次は、実家の事業が成功し、経済的には非常に恵まれた時期もあったようです。回顧録『忘れ残りの記』には当時の山元町界隈の様子が詳しく描写され、英次本人もこの時期にあらゆる本を読み漁り、当時の日本で一番の繁華街であった伊勢佐木町で一流の芝居を観つくしたと語っています。
そのような少年時代に得られた知識と感性が、英次の文才を刺激し、英次の作品の基盤になっていったことは間違いないだろうと感じます。
英次は、実家の事業が失敗すると、家計を助けるために学校を退学し、奉公に出されたようです。英次は職を転々とし、九死に一生を得るような大怪我もしたようです。恵まれた生活からどん底ともいえる辛苦の生活環境へと突き落とされたからこそ、英次は誰もが持つ弱者の視点と気持ちを、ひと一倍理解することが出来たのだろうと感じます。
英次は、誰もが知っている歴史上の人物でさえも抱えていたと思われる苦悩と弱い人間性を描くことで、歴史上の人物も身近な一人の人間だったことを伝え、読者に深い共感と感銘を与える作品を執筆し続けられたのだと思います。
このあとも、しばらく尾根上の路地を歩いていきたいと思います。(文・横浜市八聖殿館長 相澤竜次)
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