本牧 気まぐれ歴史散歩 70 『中島 敦』 若くして没した本牧の文豪
元町幼稚園にある中島敦に関する解説板
夢に敗れて虎になった男の話『山月記』は、多くの高等学校の国語の教科書に掲載されていたことから、ご存知の方も多いと思います。
作者の中島敦は、昭和８年（１９３３年）から８年間、元町にあった横浜高等女学校(現 横浜学園)の教師として、国語・英語・歴史・地理の授業を担当しながら、小説を執筆していました。学校まで歩いて通える本郷町のガス山の坂を登ったところで暮らしており、中島の作品『カメレオン日記』には、当時の山手から本牧までの様子や中島の生活をうかがうことができるシーンが記されています。
横浜で教員となる前から喘息を患っていた中島は、病状が悪化したことから、昭和16年（１９４１年）に療養を兼ねて、日本が国際連盟から委任統治を託されていた南洋諸島へ役人として赴任しました。しかし、気候が身体に馴染まず、病状をさらに悪化させてしまいました。中島は２年足らずで帰国し療養しましたが、33歳の若さで亡くなりました。
没後に発表された中島の作品は20作未満でしたが、中島は漢文学・国文学に留まらず、西洋文学から哲学・宗教・歴史などにも通じていたことから、それらの知識に裏打ちされた作品すべてが高く評価されました。
若くして病没し、発表された作品数も少ないにもかかわらず、文豪として高く評価されている作家は、中島のみかもしれません。
ガス山の坂を下って小港まできました。山手警察前の交差点を渡ろうと思います。（文・横浜市八聖殿館長 相澤竜次）
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