印章彫刻工として黄綬褒章を受章した 國峯 正美さん 大岡在住 75歳
はんこ文化を守る技と自信
○…産業や芸術に功績のある人に贈られる秋の褒章。県内32人の受章者の1人に選ばれた。「褒章は狭き門だと思っていたので、家中で喜んでいる」と笑顔。はんこを作り続けて60年。15年前、市が優れた技能職者を選ぶ第1期の”横浜マイスター”となり、5年前には卓越した技能者として厚労相から”現代の名工”として表彰された。それらに続く栄誉となった。
○…群馬県出身。子どものころから手先が器用で、15歳の時、伊勢佐木町ではんこ店を営む伯父の店で修業を始めた。技術は見て覚え、10年で一人前の世界。13年間の修業を経て、地下鉄開業工事中の弘明寺で独立。「腕には自信があった。あとは店を知ってもらうだけ」と広さ6畳の店舗を宣伝するために、地下鉄やバスに広告を出し続けた。腕の良さを聞き付け、客が増え、開業5年で現在の場所に移転するほどだった。
○…直径1cm程度の印鑑に文字を入れることは、一つの芸術作品を仕上げるようなもの。「文字がゆったりとまとまっているのが良い」という。注文を受ける際は必ず客と会話を交わし、そこから感じ取ったものを書体や文字のバランスに反映させる。女性なら曲線をしなやかに、体が弱いという人には太く、力強い文字で―。「印鑑は使う人の顔とも言える。人柄が字ににじみ出るようなものを作りたい」。彫り終えるまでに5、6時間かかることも珍しくない。長時間、ミリ単位の作業を支える目は今でも視力1・0を保ち、月に20本以上を彫っている。
○…仕事を終えると、週2回は妻と社交ダンスでリラックス。習い始めて8年経つが「なかなか覚えられない」とはんこ作りとは勝手が違うようだ。”2代目”の息子らと7人でにぎやかに暮らす。「日本の文化」と主張する印章彫刻。「実印制度と命がある限り、仕事を続けたい」と語る表情から、自らの技術への揺るぎない自信と文化を守っていく強い決意が感じられた。
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