南区 社会
公開日:2022.09.15
「若者のSOSに気付いて」
自殺予防 専門家、南公会堂で講演
若者の自殺をなくすためにできることを考える講演会が9月9日、南公会堂で行われ、約60人が参加した。
若者の自殺防止に取り組むNPO法人「OVA」代表理事の伊藤次郎さんが講演。伊藤さんは精神保健福祉士で、2013年から子どもや若者の自殺に問題意識を持ち、14年にNPO法人を設立。2019年から厚生労働省の自殺対策関係の有識者会議委員を務めている。
コロナ禍で増加
伊藤さんはコロナ禍が始まった2020年の全国の19歳未満の自殺者が777人で19年から約18%増えたことや15歳から39歳までを5歳刻みで分けた際、死因の1位がいずれも自殺であることを紹介。若者の自殺が多い状況は「先進国と比べても深刻な状況」と分析した。
スマートフォンが浸透したこともあり、一つの検索エンジンで「死にたい」と入力される回数が1カ月で13万〜24万回あると推定されるとし、周囲にSOSを出せない人がインターネットに行き着いているという。その上で伊藤さんは「若者のSNS上の『死にたい』には、心理的苦痛を吐き出して気持ちを楽にするという意味と助けを求める意味があり、『生きる』ために『死にたい』と書き込んでいる」とした。自殺の直前まで「生きたい」と「死にたい」の間で気持ちが揺れ動いており、周囲の大人が関わることで「生きる」を選択することにつながると訴えた。
兆候で声掛けを
若者のSOSに周囲がどう気が付くかに関して、「身体の不調を訴えたり、身なりが変化するなどの違和感などがSOSの兆候であることが多い」とし、兆候に気が付いたら、声を掛けて気にかけていることを伝えるのが大切だとした。
相談を受ける側として、深刻な悩みを打ち明けられた時は「一人で抱え込まず、多くの人で一人を支えることが重要」とアドバイスした。
最後に誰にとっても最も大切なのは「ストレスの元になっている問題を解決することで、そのための重要な行動は相談すること」と結んだ。
講演後、伊藤さんは「コロナ禍のマスク生活が当たり前となり、相手の表情が見えづらくなっている中、いかにSOSに気が付くかが大切」と話し、人と接する機会を増やすことが自殺防止につながると語った。
市、気付き・見守り役を養成ゲートキーパー
横浜市は2019年に「自殺対策計画」を策定し、自殺を未然に防ぐ「ゲートキーパー」の養成を進めている。
人口動態統計によると、横浜市では1998年に自殺者数が急増し、99年には792人と過去最多となった。2010年以降は減少傾向だったが、19年は490人、20年は550人、昨年は574人と増加に転じつつある。
自殺対策計画では、悩みを抱える人の変化に気付き、適切に声を掛けることなどを通じ、自殺を未然に防ぐ「ゲートキーパー」を23年度末までに1万8千人養成することが盛り込まれている。
3年で1・2万人
計画開始から3年。期間中に自殺対策研修を受講し、新たにゲートキーパーとなったのは1万2391人。20年以降はコロナ禍で対面講座が困難な状況となったが、市は講師を派遣する出前講座やオンライン講座の回数を増やすなどして対処。市担当者は「養成は計画に沿った形で順調に進んでいる」としている。
対面機会奪われ
ゲートキーパーが増える一方で、自殺者数は増加傾向にある。その要因の一つとして考えられるのが、コロナに関係した自殺だ。計画が策定されたのはコロナ禍前で、それ以降、身近な人とも会うことがはばかられる事態となり、当事者に寄り添い、死の入り口に立ちふさがる「命の門番」とも言える存在のゲートキーパーの強みが抑え込まれる形となった。
市担当者は「悩んでいる人の変化に気付ける人が増えることで、最悪の結果を回避できることにつながるはず。もどかしさも感じるが、引き続き養成を続ける」とした上で、「年明けから次期計画策定へ向けた動きがスタートする。しっかりと検証し、コロナ時代に即した形を模索したい」としている。
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