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鶴見区版 公開:2022年6月30日 エリアトップへ

「土木事業者・吉田寅松」35 鶴見の歴史よもやま話 鶴見出身・東洋のレセップス!? 文 鶴見歴史の会 齋藤美枝 ※文中敬称略

公開:2022年6月30日

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急勾配の大釈迦隧道開削(だいしゃかずいどうかいさく)

 奥羽山脈で隔たれた地に鉄路をひらく南線に比べ、津軽、能代、秋田平野など低地が多い北線は比較的難所は少なかった。が、吉田寅松の吉田組が請け負った工区には秋田と青森の県境に位置する矢立峠と並び、奥羽北線で一、二を争う難所の大釈迦隧道があった。約二百七十メートルで北線第三の長い隧道は、青森を出て間もない鶴ヶ坂渓谷から続く紆余曲折した急こう配をのぼった大釈迦峠の頂きに開削するトンネルだった。

 大釈迦隧道開削工事は、難航をきわめた碓氷峠の直後だったので、寅松は碓氷峠の工事にたずさわった職人たちを呼び寄せ工事にあたらせた。

 工事は北口から掘り始めた。真っ暗闇の坑内を菜種油で灯すカンテラのほの暗い明かりを頼りにツルハシをふるって掘り進み、掘った土砂や岩石は蔓で編んだモッコに入れて担ぎ出す。換気装置もない坑内で不完全燃焼するカンテラの油煙がたちこめ視界は遮られ、粉塵まじりの汚れた空気で呼吸も困難になり、しばしば工事を中断しなければならなかった。

 豪雪のなかで、作業員たちは真黒になって働き、先行導坑を貫通させて本坑道を五十メートル程掘りすすんだ明治二十七年三月、落盤事故が起きた。坑内は細砂の地層だったため、坑内にあふれた地下水が砂の層を洗い流し、更に地震で水路が拡大したため支保工では支えきれず崩壊した。

 崩壊土砂の上部、坑道に沿ってできた幅三・六メートル、高さ十五メートルの空洞を埋めるため、隧道に並行して走る国道から二十六メートルの横坑を掘って土砂を搬入した。

 開削中の隧道は、四十分の一の急こう配の上り坂の途中にあり、崩壊箇所から南口までは深く溜まった地下水にも阻まれ工事は中断させられるなど難航した。が、碓氷峠の難工事で培った吉田組の技術力で苦難を乗り切り、十月に大釈迦隧道を開通させて、明治二十七年十二月一日に青森・弘前間の開業を導いた。

 鷹ノ巣駅近くの隧道が四か所ある第十六工区も中山慶介を代人として吉田組が請け負い、明治三十二年十一月に着手した。この工区の急斜面に開削する第三号隧道の地盤は、水分を含んだ粘土質の土壌で、切りとるにしたがい崩落しつづけ、崩落土砂の量は一万坪にもおよんだ。崩落を防止するため斜面に土留めの巨大な擁護壁を築き、二年の歳月をかけて明治三十四年十月にようやく竣工させることができた。

認められた寅松の技術力

 明治三十三年一月に着手した第四号隧道を過ぎて米代川支流の藤琴川に架ける二十メートル余の藤琴川橋梁は、鉄道局の直営だったが、工事は吉田組の職人たちが行った。一帯の川床は砂利層で、平水時の川幅は約四十五メートル、水深六十センチほどだったが、出水時には水かさが増し工事が妨げられ、十九か月を要する難工事だった。

 南秋田郡と山本郡の郡境、八郎潟を望む三倉鼻(みくらはな)の切り取りも湧水や土砂崩壊などで難渋。土留めの擁壁を築き、排水設備を施してようやく竣成させた。第二十工区、鹿渡から一日市(ひといち)間は後藤傳五郎を代人として吉田組が請け負い、頑固者として「頑哲」と呼ばれた大野哲監督のもと、明治三十三年二月に竣工させた。

 神宮寺停車場と大曲停車場の中間、雄物川と玉川の合流点近くに位置する延長約七百二十メートルの玉川橋梁は、奥羽南北線通じて最長の橋梁だった。国の直営施工とするべき大工事であったが、寅松の技術力を認めた当局の一大英断で、吉田組に請け負わせることになった。基礎井筒の鉄工材、煉瓦石、セメントは支給され、川底に下ろした井筒の土砂を取り出すため、当時としてはすこぶる進歩的な五馬力の蒸気式の巻揚げ機(ウインチ)も貸与された。しかし、不慣れな最新式機械より人力のほうが効率的で安上がりだったので、機械は返上して人力で巻き揚げた。

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