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神奈川区版 公開:2013年3月14日 エリアトップへ

タウン童話 『人になれなかった妖精(ようせい)』 絵・文 バタバタばーば(斎藤分町在住)

公開:2013年3月14日

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 僕は学校から帰るといつも屋根にのぼる。2階の勉強部屋から手すりをまたいで外に出るのだ。寝そべって屋根の上で本を読むのが楽しみ。本を読むのが大好きだ。本の中にはいろいろな世界が詰まっていて、いつでも好きな国や好きな場所にすぐ飛んでゆけるからだ。今日もいつものように春風が気持ち良い空の下で、本を広げていた。

 今日は「人になれなかった妖精」という不思議な世界の話。本に夢中になっていると、庭の柿の木を上って来る人がいる。白い服のおじいさんだ。おじいさんは、木から屋根にぴょんと飛び移って僕の隣にどっかり座った。「君はいつも本を読んでいるね。そんなに本が好きかね」と僕の読んでいる本を覗き込んだ。僕は「大好きです」と答えた。するとおじいさんが「本の中にある物語の世界に行ってみたくないか」と聞いた。僕は、本の中の妖精に会ってみたいと思っていたので、「行ってみたいです」と思わず大きな声で言った。「人になれなかった妖精」の140ページにある深い森の中の風の家に行って見たいです」というと、おじいさんは「私は熱心で一生懸命な君が大好きだから良いものをプレゼントしよう」と言って、そこに飛んでいた黄色いチョウに「雲を呼んでおいで」とやさしく言った。チョウはヒラリと風に乗ってヒューと舞い上がったと思ったら、高い空から雲がフワーっと降りてきた。「さぁこれに乗って行くといい」と僕を雲の上に乗せた。雲はまるで綿のようだった。座ると椅子の形に、寝るとペットの形になってしまう不思議な乗り物だった。僕は他に雲ひとつない青空の中を目の下の山や川や海を眺(なが)めて、長い空の旅を楽しんだ。ずいぶんたって、深いこんもりした森の上にやってきた。

 すると、雲の下からふわふわのハシゴが降りてきて「どうぞ」といわぬばかりに地上まで伸びていった。あの、人になれなかった妖精が住んでいる森にちがいない。僕は急いで階段を駆け下りた。雲はフワーと大きなかたまりになって空へ飛んでいった。森の中は、木漏れ日の気持ち良い小道が続いていて、まるで舞台の花道を歩いているようだった。お日様がよそよりたくさん射し込んでいる林についた。

 居た、居た。ほんとうに小さい女の子が居た。女の子は泣いていた。「どうしたの?」「空を飛べなくてもいいから、人間になりたいの」と小さな声で言った。僕はどうして人間になりたいかをたずねてみた。すると「おかぁさんが欲しいの」と涙をこぼした。妖精は光の中から生まれるから、おかぁさんがいない。いつか人間の世界に行った時、いつもお話を聞いてくれたり、美味しいものを作ってくれる優しいおかぁさんがいることを小さな妖精は、知ってしまった。だから人間になりたいと毎日思っているのだと言った。「すごい、本の通りだ」僕は大急ぎで続きを読んであげた。「君はすごい晴れた日に、どうしても子供が欲しい家の人にもらわれていくらしいよ」と教えてあげると、妖精がスーッとどこかへ消えてしまった。気がついたら今日は朝から晴れ上がった良い天気ではないか。きっとどこかの家にかわいい女の子が生まれているに違いないと思った。

 本は、楽しいな。次は何を読もうかな…。


 

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