高津区版 掲載号:2018年6月1日号
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連載第一〇四八回「二子の懐古」 高津物語

 多摩川の二子の渡しを渡ると、二子の亀屋があった。

 元禄初(一六八八)年の開業といわれる。簡単に元禄初年などと言っているが、松尾芭蕉が「奥の細道」の旅に出発した年だといえば、何如に古いか分かるだろう。その数年後に赤穂浪士の討入りがあった。

 元禄年間から多くの文人が亀屋を訪れた。田山花袋は、「二子の亀屋は私は好きだ。私は其処に四、五度は行った。そこの二階の西の奥の八畳、そこが殊に私は好きだ。川の眺めはそう大して優れたという程でもないけれど、何処か家のつくりや古風な所や高い二階や取り廻した欄干や門のようになった入口や家の周囲を取り巻いた欅や欅の緑葉を透して差し込む日影やそういうものが私の心に静かに汲み込んでくる」と『東京の三十年』の中に書いていて、国木田独歩と一緒に「溝口の亀屋」を見に行った帰路の事で、今回で五度目だと書いているから、余程気に入ったのだろう。

 岡本かの子が高津小学校機関紙に書いた自由詩を『読売新聞』に発表したら「太郎へのせっかん後悔」と大きく取上げられ、夕刊のコラム欄でも取上げられ、驚いたことがあった。

 「カツとして、このわがままを、ひしひしにむちうちにけり 男なる子は泣かずとも 女なる親のわが身が さめざめと泣きいでにけり うたれしは子にあらずして わが身にてありにけらしな わがままは 子にあたへたるわれのわがまま」。

 太郎への愛情を切々と訴え、矛盾に満ちた太郎への愛情を自悔し、後悔し、煩悶する姿が写実的に描かれていて、地元高津で発見された珍しい作品だ。

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