相模原市立博物館レポvol・2 科学の芸術 生物細密画の世界 学芸班 秋山幸也
生きもの好きな人の大切なツールの一つに「図鑑」があります。最近は写真機材が格段に進歩、普及したため、写真図鑑が主流です。驚くような拡大写真や、目の覚めるような美しい色彩が再現されたすばらしい写真図鑑が数多く出版されています。でも少し前まで図鑑はイラストが主流でした。イラストは専門の画家が1枚1枚科学的な視点で正確に描くため、時間とコストがかかります。出版不況と言われる近年、イラスト図鑑を作る余裕がなくなってきたのが現実です。
ところで、写真とイラスト、どちらにも長所短所があります。写真はその生きものの形や姿勢などを写し取るのが得意です。リアルさという点でイラストよりも説得力があります。しかし一方で、写真に写っているのは「個体」の外見と瞬間であって、生きものとしての典型的な姿を表しているとは限りませんし、時間の経過の中で見せる外見の変化までとらえきれません。その点イラストは、1枚で様々な要素を表現することができます。
例えば「トウゴクミツバツツジ」という植物のイラストがあります=写真。この中には花はもちろん、花の後に展開する葉、実った種子、拡大した解剖図など、その植物のあらゆる情報が1枚の絵に表現されています。そしてもちろん、これらはすべてトウゴクミツバツツジの典型的な姿として科学的な正確さで描かれています。
このイラストを描いたのは、市内在住の生物細密画家・松原巖樹さんです。松原さんは植物から動物、そして生きものたちが織りなす生態や風景まで幅広く描かれ、数多くの図鑑や科学絵本の分野で長年にわたり第一人者として活躍されています。生きものを正確に描くことはもちろん、生命の美しさや力強さまで表現された作品は、徹底的な観察に裏付けられた科学の芸術と言えるでしょう。
当館で、4月18日(土)から開催する松原巖樹生物細密画原画展「図鑑の生きものいっぱい」では、松原さんの作品約160点を展示します。地元相模原でもこれほど大規模な原画展は初めての開催です。ぜひご来場ください。
(問)相模原市立博物館【電話】042・750・8030
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