「震災があった年に保健所から引き取った犬は、本当の意味で『傷だらけ』でした。人やモノにおびえて、吠えたり唸ったり。人が被災したように、動物もまた被災しているんです」
麻布大学伴侶動物研究室の茂木一孝准教授は震災直後から、毎春福島県の保健所などに赴き、現地で保護された犬を複数頭引き取っている。犬は、同大で暮らしながら学生たちに面倒を見てもらい、日常生活を通して心と体を少しずつ回復させていく。春に引き取った犬たちはその年の秋ごろに里親に引き取られ、第2の人生をスタートさせるのだ。
活動の基盤にあるのは、25年前に起きた阪神淡路大震災。当時は都内の大学に通う学生だったが、そのときもペットや飼い犬の避難場所や野犬化が問題になった。「きっと同じことが起こる」。東日本大震災が起こったとき、動物研究の権威である麻布大学の一教員として、できることから支援していこうと思った。
まず震災の翌月に現地入りし、宮城県仙台市のほか、福島県の郡山市やいわき市を巡った。見た限り、仙台市は行き場を失い放浪している犬は少なかったが、すぐに「津波で流されたからいないのか」と察した。保健所の壁に「犬探してます」の紙が何枚も貼られていた。福島県に入ると、原発事故の影響で避難生活を余儀なくされている人たちを多く見た。ペットと一緒だと公共施設内にいられず車中泊を強いられるなど、問題が顕在化していることが分かった。
関東に戻り、改めて郡山市やいわき市と連絡を取り合い、6月に11頭、11月に9頭を迎え入れた。同研究室では、授業の一環として学生たちがチームを組み、散歩から食事、しつけまでを担当する。被災した犬の中には、ストレスでどう猛になり手を付けられない犬もいる。そんな相手にいかに向き合い、根気よくコミュニケーションを続けていくか。一筋縄ではいかない犬の反応に、学生たちは試行錯誤の毎日を送る。中にはこの日々の関わりを通して、犬がどのように変化したかを研究論文にまとめて発表した学生も。被災地支援としてだけではなく、これから先の災害時にも役立てるため、経験の共有を図っていく。
9年間で67頭
春に行われる同研究室の説明会では、授業外にかかる時間や手間の大変さを口を酸っぱくして説明する。それでも「関わりたい」と毎年30人ほどの学生が集まる。9年間で受け入れた頭数は67頭。年々減少しているのは確かだが、今被災地に行けば、まだまだ仮設住宅で暮らす人が数多くいる。飼い主の年齢や生活状況の変化によって飼えない犬が生まれることもある。「犬は、社会情勢を映す鏡でもあります。そのしわ寄せを少しでも減らせるよう、活動を続けていきたいです」
さがみはら中央区版のローカルニュース最新6件
「念願」給食室が完成4月26日 |
|
駐車場がない!衣料店が解決4月25日 |
|
変わりゆく花火大会4月25日 |
|
|
<PR>