「食べるのは好きだが、そこで働くのは嫌だ」――。営業時間が長かったり、休日の出勤が多かったりと従業員への負担が大きいと言われる「飲食業界」。そのような状況を変えていこうと、これまでの慣習に捉われず新しい取り組みに挑戦する経営者がいる。

経営者の挑戦

ラーメン店清掃機械化

　およそ30年前、緑区東橋本でラーメン店を始めた小川厚志さんはこの春、「飲食業界の未来を明るくするため」に新しい会社を立ち上げた。

　町田市に拠点を構える、その名も「ミライ機器販売」は飲食業での業務を「機械化」する機器を扱う。「労働環境が悪いと言われ、若手が減っている業界です。なんとかしていかないと、この業界の未来はないと思っています」。小川さんはこれまでの経験と調査から「ゴミの処理が大変」「清掃がきつい」などが離職の原因のひとつであることがわかっていた。

　そこで小川さんは既存店舗でさまざまな機器を試した上、３つに絞り込み、６月からそれらをパッケージで販売している。「生ゴミを完全に消滅させるもの、油脂分離阻集器を清掃してくれるもの、そして床全面を自動で洗浄してくれるもの。これまで敬遠されていた業務を機械が代わりにやってくれます」

省力化 求人も好転

　小川さんのグループ会社は近郊で合計16のラーメン店を展開しており、昨年10月から「実験的」に導入している厚木の店舗の成果を見極め、今後各店へ取り入れることを検討している。一方、この「省力化」により労働環境が改善され、求人の際その点を広くアピールしたところ応募者が大幅に増えたそう。

　「飲食業界がなくなったら（世の中）つまらなくなりますよ。外食って楽しいじゃないですか。だから衰退してほしくはないんです」

持続可能めざしハンバーガー店

　オーダーストップは午後４時30分。「稼ぎ時」であるはずの５時を過ぎると従業員は家路に付き、店舗の灯りは落とされた。中央区中央のハンバーガーショップ「ハイダイナー」のオーナー中村和希さんは10年以上、飲食業界に携わる中で昨年11月、この店をオープン。目指したのは、持続可能な働き方だ。

　それまでも飲食店のオーナーを務めていたが、当時の勤務時間は午前10時から午後３時、中休みを挟んで５時から11時と、いわゆる「長時間勤務」。儲けはあったが「これでは続かない」というのが実感だった。

　そのような中、転機はコロナ禍だった。「勤務時間を短縮できる方法はないか？」。営業時間が制限されるなどする中、中村さんに考える時間ができ、新しい発想が生まれた。お酒を提供する店舗の場合、夜の時間を開けざるを得ない。すると、自分に限らず従業員の帰宅時間はおのずと遅くなる。そこで思い浮かんだのがハンバーガーだった。「ハンバーグを夕食として食べることはあるだろうが、ハンバーガーはあまり夜に食べないはず」。業態転換しハンバーガーを専門に扱う店とすれば、夜の勤務はしなくて済む、と考えた。

売上も満足度も

　開店して半年、実績はどうか。同店の営業時間は午前11時から午後５時まで。売上は、中村さんがかつて長時間労働で展開していた店舗の時の１・８倍。勤務時間は午前10時過ぎから午後５時と一般的な企業並みとなり、従業員の労働への満足度は「60％から80％になった（中村さんの感覚）」という。「私は、お客さんより従業員を大切にしています。お客さんは従業員が大切にしてくれれば良いんです。みんなが幸せになることを目指しています。そうしないと続いていかないですよ」

状況深刻対処早めに

　市内で飲食店支援に取り組む中小企業診断士によると、今年４月に帝国データバンクが行った調査では飲食店における人手不足の割合は正社員で61・３％、非正規社員で85・２％と依然高い水準にあるそう。特に非正規社員の人手不足割合は全業種で最多で、労働力の７割以上を非正規に頼る飲食店では深刻な状況が続いているという。

　「こうした中、企業の持続的な成長を維持するためには、省力化による生産性の向上や労働者の負担軽減に関する取り組みが必須となっており、取り組みに遅れが生じた場合、企業の存続にかかわる問題に発展することを肝に銘じなければなりません」とその診断士は警鐘を鳴らす。その上で「今回紹介された事例は、離職理由の上位にあげられる３Ｋ（汚い・危険・きつい）や長時間労働の解消につながる取り組みであり、多くの飲食店が参考にできる内容だと感じました」とも。また現在は、行政による生産性向上や業態転換に活用できる補助金制度なども充実していることから、「多くの飲食店が労働者の待遇改善に取り組み、街に彩りを与える飲食店が再興していくことを願ってやみません」と話した。