【Web限定記事】コロナの今、その先― 〈福祉〉 働き方や利用者への接し方を見直す契機に 森弘樹氏(横須賀地区高齢者福祉施設連絡会会長)
新型コロナウイルス感染拡大・外出自粛の影響は多分野に渡っています。「今」の動きと「これから」を各界の関係者に聞きました。
――新型コロナの感染拡大の「クラスター」発生の現場として、医療施設や高齢者施設が挙げられています。感染が広がり始めた初期(2月〜3月)の市内介護施設での状況とその当時の課題をお聞かせください。
「コロナウイルスに関する情報が聞かれ始めた昨年暮れ、当初は『新型インフルエンザ等発生時等における事業継続計画に則り、感染予防対策を徹底していけば』という認識からスタートした。2月8日、横浜に寄港したクルーズ船『ダイヤモンド・プリンス』での、現実とは思えない日々の報道を目にしたことで、ただ事ではないと認識。そこで連絡会として2月初旬頃から各施設へマスクの備蓄確認を実施。3月頃までは施設ごとに予防策を講じてきたが、『(感染予防のため)サービスを休止すべきなのか』という会員事業者からの問い合わせが増え始めたことで連絡会として足並みを揃えるべく市に相談。回答は『各法人の判断に委ねる』。そこからは利用者とその家族の体調確認を厳しく行ってサービスを継続した事業者もあれば、新規入居希望者の受け入れ中止や既存のデイサービスを休止する苦渋の決断を下した事業者もあった。課題としては、毎年この時期に集中して開かれていた法人ごとの総会や研修の存在。今までは対面することが通常であり、テレワークやWeb会議を行っていた会員事業者もほどんど見受けられなかったため、全て中止・延期となった。今回のコロナ禍を機にオンラインでできる仕事や会議もあることが実感できた」
――コロナに関しては圧倒的に「防護のための物品」と情報が少ない状況が続いたかと思います。行政機関や市内の他施設とどのような情報共有を行っていましたか。
「各施設とも疫病対策としての備品の用意はあったがここまで長期になることは予想外だった。4月頃から特にマスク不足が深刻化する施設が現れ始め、医療用のサージカルマスクを2〜3日に1枚使い回したり、再利用できる布製マスクも活用し始めるなどしてしのぎ始めた。情報共有はメールや電話が主。市内施設同士でのやり取りもテレビ電話やWeb会議を導入するなど、不慣れながらもまずは試験的に模索から始め、今ではどの事業者も前向きに捉えているようです」
――現状で、各施設が取り組んでいる感染防止対策を教えてください。
「業者からの搬入物の受け渡し作業を外で行い、デイサービス利用者は外部との接点もある家族の健康チェックも実施。本来であればありがたいボランティアの方も受け入れを一時中止し、職員のプライベートもできる限り外出を控えてもらうなど、考え付く限りの予防策を施設ごとに今もなお講じ続けている」
――感染リスクの高い現場と言われる中で、国は特別手当や労災などを打ち出していますが、現場の職員はもう少し生活に直結した悩みを抱えているかと思います。そういった声があれば、お聞かせください。また、コロナ禍での離職など雇用の面で課題を抱えている事業者もあるのでしょうか。
「軽微な体調不良や、本人が問題ない場合でも2次感染、3次感染を防ぐため、大事をとって自宅待機を命ずる場合もあるので、人員が不足しがちになる。子育て世代の職員は学校が休みになると就労できないため、事業所の工夫で託児所などを開設するが、感染症に対して一層の注意が必須となる。職員の新規採用に関しても緊急事態宣言解除後も引き続き不安が残っている。毎年冬に開いていた福祉に関するシンポジウムも今年は中止する方向で話が進んでおり、連絡会としての活動も制限せざるを得ない状況」
――現状では、面会など来館者・入居者への訪問も制限があるかと思います。一方で、外出自粛など入居さんもストレスを抱えていると聞きます。その中での新しい方策(「Webお見舞い」など)に挑戦する施設もあるようです。現場で実践しているものなどありましたらお聞かせください。
「入居者とその家族の面会も基本的に禁止。それは緊急事態宣言が解除された今も継続している。そうした状況においても入居者や家族にとって、互いに近況を話し合ったり雑談をすることは精神的にも極めて重要。そこでアプリなどを使ったオンライン面会も今回のコロナ禍を機に始める施設も出てきた」
――連絡会として、今回のコロナ禍で得た気づきもあったそうですね。
「日帰り利用のデイサービス利用者の中には感染リスクを恐れ、自主的に通わないことを選ぶ人も少なくなかった。その対策として電話による安否確認が正式な業務として認められることになった。また、ケアマネジャーについても、実際に利用者宅へ出向かなければならなかった安否確認を、現在は国が暫定的に遠隔でのモニタリング確認にまで拡充した。これは従事者が慢性的に不足がちで、マンパワーに限りがある福祉業界にとって新たな光となり得るのではと感じている。遠隔での安否確認が可能になることで老後も自宅で安心して暮らせるという利用者の選択肢が増えるだけでなく、従事者1人がカバーできる人数が増え、さらに省力化できた時間や労力を他のサービスへと転じたり、余裕が出来たことで従来のサービスの質向上を期待出来るなど、介護職という対面が基本でデジタル化が難しいと思われてきた働き方を見直す良い機会にもなった。今後も感染予防に細心の注意を払いながらサービスを続けていくと共に、コロナ禍で変化した働き方の有効性を検証し、今後も公的サービスとして認められる新しい働き方を定着させていけるよう行政へ働きかけていくことが横須賀、さらには日本の未来にも繋がっていくものと使命を感じている」