戻る

横須賀・三浦 社会

公開日:2022.09.23

「ごみ屋敷」根治的な解決あるか

  • 2018年に行われた市による強制撤去。現在はごみがうず高く積まれている

 家屋や庭先にごみを溜め込み放置状態になっている、いわゆる"ごみ屋敷"が近隣住民を困らせている。景観を損ねるだけでなく、衛生環境の悪化や悪臭による被害など全国各地で深刻な社会問題を引き起こしている。横須賀市では、2018年に「ごみ屋敷条例」を定め、市内男性宅の散乱物を強制的に撤去する行政代執行を実施したが、以降も"ごみ屋敷化"が繰り返されており、改善は見られない。こうした事態を受けて市は、行政指導を行うことなく、命令できるようにする条例の一部改正を進めている。



代執行後に再発



 「ごみ屋敷の問題を原因者に押し付けるだけでなく、地域の課題とすることで解決の糸口を探し出す」──。



 そんなテーマを掲げた地域活性学会主催のシンポジウムが9月11日、関東学院大学八景キャンパスで開かれ、市のごみ屋敷条例の制定で中心的な役割を担った横須賀市議会議員の加藤眞道氏が事例報告を行った。



 これまではごみの堆積者に対して、財産権保障の壁が立ちふさがり、「行政が粘り強く片付けを呼びかけるしかなかったが、条例を制定したことで命令、代執行が可能となった」と加藤氏。同条例は、単なるごみの撤去だけでなく、福祉的な要素を盛り込み、生活支援や精神面のケアも同時に行いながら再発防止をめざす理念を持っていることも示した。



 その一方で、ルールや規定だけで、人を管理することの難しさと限界も伝えた。先の男性宅の代執行で撤去されたごみの総量は1710kg。パッカー車2台とトラック1台で燃せるごみ・不燃ごみ、金属類が運び出されたが、直後から周辺のごみ集積所からの持ち去り行為と溜め込みが続き、2年後にはもとの状態に。現在は当初を上回るごみが家屋と庭先に積み上げられているという。市職員によるのべ10回にも及ぶごみの排出支援や地域住民の声がけで、一緒に撤去作業を行ったこともあったが、根本的な解決に至っていないとの説明もあった。市内では男性宅のほかにも現時点で21件のごみ屋敷を確認しているという。



 市が条例の一部改正を検討しているのはこうした背景があるからだ。近隣住民の我慢やストレスの限界を考慮し、過去に命令を受けた堆積者が1年以内に再び同じ生活環境となった場合、行政指導を行うことなく命令できるようにする。市は23年3月定例議会で条例改正案を提出し、同年7月に施行する方針。今年10月からパブリックコメントで意見を募る。



精神面と密接な関係



 同シンポジウムでごみ屋敷問題の研究者である関東学院大学教授の出石稔氏は、発生の理由として、物に対する執着を起因とする「確信犯的」、片付けられない、不快に思わないなどの「個人の生活感(性格)」、身体的な問題で意思はあるができない「高齢者世帯」の3つを挙げた。



 いずれのケースも本人の意思とは別に、近隣の住環境や治安を悪化させることにつながる。さらに高齢化・人口減少により、ごみ屋敷問題は今後、急速に進展していくと出石氏は予測。条例の制定が全国の自治体で進んでいるが、再発を含め有効な手立てや根治的な解決方法を見いだせていないとした。



 特にごみの堆積の繰り返しやごみ集積所などからの持ち去りは、精神疾患や社会的な孤立などの課題を抱えているケースが少なくなく、「行政手法を用いた適正管理と福祉的な支援、地域による協力の三位一体の取り組みが不可欠」と総括した。

ピックアップ

すべて見る

意見広告・議会報告

すべて見る

横須賀・三浦 ローカルニュースの新着記事

横須賀・三浦 ローカルニュースの記事を検索

コラム

コラム一覧

求人特集

  • LINE
  • X
  • Facebook
  • youtube
  • RSS