横須賀・三浦 コラム
公開日:2023.04.28
"海の隼"をあるく
〜按針が見たニッポン〜02 臼杵編(2)作・藤野浩章
目の前に浮かぶ船を呆然と見て絶対ウソだろ!と思ったが、旅先の流儀には従わねばならぬ。黒島は夏の海水浴が有名らしく、こんな季節に1人で訪れる酔狂な客を相手にしていたら商売にならないのだろう。
せっかく横須賀から来たのに残念。アダムスの船が島ではなく陸に着けば良かったのに...と思いつつ、仕方なく周辺を歩いてみることにした。
昔ながらに入り組んだ漁師町の路地をのんびり歩くが、ここが歴史的な地であったことを示す表示はほとんど無い。その代わり、港の近くには「大鯨(たいげい)善魚(ぜんぎょ)供養塔」と書かれた明治19年建立の碑があった。かつて、港に迷い込んだ鯨は村をまるごと豊かにするくらいの富をもたらしたというから、そんな鯨を"善(よ)い魚"として村人たちが丁重に葬ったという証だ。
一方、乗組員の多くを失い命からがら漂着したリーフデ号はといえば、本書では翌日にさっそく掠奪(りゃくだつ)の対象になったと描かれている。実際はともかくとして、少なくともここ佐志生(さしう)の人々の処理能力をはるかに超えた、言わば"招かれざる客人"ということだったのだろう。
港から少し歩くと、尾本(おもと)神社と書かれた鳥居があった。狭くて急な坂道を上ると、黒島が見渡せる場所に出た。当時、村人たちはこの丘に駆け付け、目と鼻の先にたどり着いた得体の知れない難破船を戦々恐々として眺めていたに違いない。
とにもかくにも、アダムスは日本を訪れた最初のイギリス人になった。彼が"善い客人かどうか"は、この地を治める豊後(ぶんご)臼杵(うすき)城主の判断に委(ゆだ)ねられたのだ。
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