横須賀・三浦 コラム
公開日:2023.06.02
"海の隼"をあるく
〜按針が見たニッポン〜06 大坂編(2)作・藤野浩章
大坂城でついに対面した2人。
来日したばかりのアダムスにとっては、処刑される可能性も高かっただけに、実にラッキーだったと言っていいだろう。一方の徳川家康と言えば、本書では服部半蔵(はんぞう)まで登場した"工作"が展開されて面白い。それほど、待ち望んでいた対面だったのだろう。
この直前にはいわゆる「直江(なおえ)状」が到着し、会津征伐(せいばつ)が決まる頃。今から思えばとんでもないタイミングで、アダムスは大坂へ行ったのだ。
戦いの準備で多忙を極めていた家康にとって文字通り"渡りに船"の存在になったのは、外ならぬその積み荷の成せる業だった。彼の頭の中には、日本を二分する決戦のイメージが描かれつつあったことだろう。
「もの怯(お)じする様子もなく、かといって虚勢を張るでもなく、ごくごく自然な態度で自分を見返している男に感心した」
「武張(ぶば)ったところは少しもなく、豊かな頬や目尻に皺(しわ)を刻んだ双眸(そうぼう)も柔和(にゅうわ)そのものである」
家康とアダムスそれぞれの心の声を、大島はこう表現している。同席した宣教師ロドリゲスは終始激しい妨害を企てたが、「何としても武器を手に入れたい」「早く帰国したい」という互いの当初の目論見(もくろみ)を超えた、今後長年にわたるパートナーとなる片鱗が垣間見えた瞬間だったのかもしれない。
とはいえ、この後アダムスたちは「不潔な地下牢」に投獄される。そして数日後、2回目の対面が設定された。結果としてこの会見が彼ら「紅毛人(こうもうじん)」の運命と、後の歴史に大きな影響を及ぼすことになる。
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