横須賀・三浦 コラム
公開日:2023.06.09
"海の隼"をあるく
〜按針が見たニッポン〜07 大坂編(3)作・藤野浩章
「どうやら、大王に我々の命を奪うつもりはないようだな」(第二章)
◇
数日後に行われた2回目の会見で、家康は再び同じ質問をした。シンプルに"どうやって日本へやって来たのか?"という問いである。そこでアダムスは前回と寸分違(たが)わぬ答えを返した、と本書では描かれている。壮絶な航海の様子を再び丁寧に語る態度に、家康はアダムスへの信頼を置いたというのだ。
しかし今回はそれに留まらず、「なぜ同じキリシタンなのにポルトガルとオランダの両陣営は仲が悪いのか?」という質問を投げかける場面が続く。アダムスの日本での行動原理を解き明かすうえで、大島は旧教と信教の対立は欠かすことができない要素の1つと考えたのだろう。しかしそれは当時はもちろん、現代の私たちにも本質的になかなか理解し難い事だ。これをどうフィクションで表していくのか?が作家の腕の見せ所ということなのかもしれない。
本書では、全編にわたって「その気になりさえすれば帰国の機会がいくらもあったと思えるのに、なぜ日本にとどまったのか?」(下巻あとがき)という疑問が流れている。史実と照らし合わせながら、小さな出来事の積み重ねが人の想いを作る事を、さまざまな人物に語らせながら丁寧に解き明かしていく。
それはもちろん家康だって同じだ。この大坂での会見をきっかけに2人は急速に接近していくが、本書では京都の豪商・角倉(すみのくら)了以(りょうい)を"キューピット"役として登場させている。家康の意を受けて、ついにアダムスに決断を迫るのだ。
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