横須賀・三浦 コラム
公開日:2023.08.11
"海の隼"をあるく
〜按針が見たニッポン〜16 浦賀編(7)作・藤野浩章
「なんと美しいところだ」(第二章)
◇
十三(じゅうさん)峠という名は、一説には「保土ヶ谷から13番目の峠」という由来があるという。
そんな峠を南から目指すには、まず塚山公園にたどり着かなければならない。今では花見の名所で車道が通っているが、車で上がるのは邪道。ここは最も難関と思われる、京急線逸見(へみ)駅起点の"階段ルート"を歩いてみることにした。
京急のガードをくぐり、なだらかな坂を山へと上っていくと、やがて塚山公園を指す小さな看板が見え、その先に急傾斜の長い長い階段があった。だいぶ絶望的な気分になるが、今さら引き返すわけにはいかない。段差がまちまちな階段を夢中で上ると、谷戸が見えた。貴重な平地を有効活用する生活の工夫は近代横須賀の発展の証。四百年前はこの辺りは深い山の中だったろう。
やがてアダムスの頃からあったかもしれない切通しにたどり着いたが、地図を見るとまだ半分強だ。港が見渡せる道に合流しても急坂は続き、山頂部の塚山公園にたどり着いた頃にはヘトヘト。公式情報には徒歩約25分とあるが、この道では至難の業だろう。短距離で優に百m超の標高差が、浦賀道最大の難所と言われたゆえんなのだ。
一転してなだらかな尾根を歩いて、開拓記念碑のある公園に着いた。房総半島まで望む逸見村からの眺めを見たアダムスの感想が冒頭の一言だ。
険しい道と美しい景色、そして海。まるでジェットコースターのような浦賀道のはるか先には、新たな主君となる家康のいるエドが待っていた。
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