横須賀・三浦 コラム
公開日:2023.10.06
"海の隼"をあるく
〜按針が見たニッポン〜23 江戸編(2)作・藤野浩章
「なかなか使える男じゃな」。なぜ徳川家康は、ほんの半年前に日本に漂着したばかりのイギリス人、ウイリアム・アダムスを信用したのか?これは、日本史上最大の謎の1つと言ったらオーバーだろうか。大砲も世界情勢も、商人や宣教師を通じて手に入れれば良い。しかし家康は彼に個人的な信頼を寄せ、「紅毛(こうもう)人」であるにもかかわらず後に旗本に登用した。
彼らの心の内を解き明かすのは、やはり創作の得意とするところ。本書では、繊細に揺れ動く2人の感情を丁寧に描いていく。
その1つが、冒頭の家康の言葉だ。江戸城で謁見したアダムスは「西での戦(いくさ)は城攻めか野戦か、それとも宇都宮城のような籠城になるのか」と問いかけ、家康を驚かせる。状況によって大砲の車を改造する必要があるというのが理由だ。家康はこれに大いに感心して許可するが、この申し出については「傭兵(ようへい)として報酬に見合う働きをせねばならぬ」と考えているのではないか、と角倉(すみのくら)了以(りょうい)が解説している。しかも「同じ囚われの身ながら、他の者とはそこが違う」というのだ。
家康はここに自身の半生を重ね合わせ、「アダムスも、自分と同じような心の持ち主なのではないか・・・」というセリフで、2人の距離が一歩近づいたことを表現している。「彼の心には肌の色を超えた同じ人間としての親しみが湧いた」。囚われの身ながらも見事に気持ちを切り替え、したたかに生きようとしている、というのだ。
家康とアダムスという異色のタッグは、ついに天下分け目の決戦へと挑むことになる。
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