横須賀・三浦 コラム
公開日:2023.10.20
“海の隼”をあるく
〜按針が見たニッポン〜25 関ケ原編(2)作・藤野浩章
多数の関係者がいたものの、決定的な史料が現存しない極めて特殊な事件が関ケ原の戦いだ。
最近の研究では、家康と石田三成はもともと親しく、反徳川を主導したのは毛利輝元と三奉行だったという説もあるとか。それによると、三成は西軍の大谷吉継(よしつぐ)に説得されて仕方なく加わったという。そうなると今まで描かれてきた「常識」が一変することになる。
戦前の旧陸軍参謀本部による戦史研究が「常識」に影響を与えたというが、証拠が少ない以上、研究者も小説家も今なお壮大なロマンを追いかけているのだ。
もちろん、アダムスが関ヶ原に参戦していたか、史実は曖昧(あいまい)だ。持ち込んだ物がモノだけに、勝敗を一気に決める可能性があることで、扱いは慎重になるだろう。
しかし、本書はアダムスが主人公。当然”伝家(でんか)の宝刀(ほうとう)”である最新鋭の大砲とともに関ヶ原に参陣する。おそらく”堂々と”彼を登場させている創作は本書以外には少ないだろう。
アダムスと同僚のサントフォルトは、家康本隊に旗本のしんがりとして「騎乗を許され」て同行する。清州(きよす)城に入ったのは旧暦の9月11日だから、約370キロの距離を11日間で移動したことになる。状況がひっ迫した状況でいかにものんびりとした道行きだが、この間に大量に交わされた書状から、家康は開戦の前に小早川秀秋を始め西軍の調略をかなり進めていた。しかし果たしてその通りに事が進むのか、気が気ではなかったろう。
ギリギリの神経戦がピークを迎える中、本書ではアダムスが劇的な登場を果たすことになる。
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