"海の隼"をあるく 〜按針が見たニッポン〜27 関ケ原編(4)作・藤野浩章
1万5千の大軍とともに松尾山に陣取る小早川秀秋をどう動かすか。関ヶ原の戦いを描いた創作では、これがクライマックスになっている。
しかし最近では、開戦とともに小早川は西軍に寝返って大谷吉継(よしつぐ)軍を壊滅させ、それがきっかけで東軍が2時間ほどで圧勝したという説もあるという。
いやいや、それではあまりにも見せ場がない・・・・・・というのが小説家の本音だろう。19歳の小早川は東西どちらに付くか悩み続けなければ面白くない。
そこで"開発"されたのが、いわゆる「問鉄砲(といでっぽう)」だ。業(ごう)を煮やした家康が、出陣の催促として小早川軍に鉄砲を放ったというのだ。もちろん近年の研究ではこれ自体が後の創作だというが、そこは諸説あり、ということで話を進めることにする。
本書では、ここでアダムスが活躍する。そう、「問大砲」が満を持して登場するのだ。このアイテムを持っているのは、作者の大島もさぞかし心躍っただろうし、もしかしたら家康もそうだったかもしれない。
戦線が膠着(こうちゃく)状態に陥り、家康のイライラがピークに達した時、遅れていたアダムスがようやく姿を見せる。
「(大砲の)狙いは?」の問いに「三成の本陣じゃ」と答えたものの、霧が立ち込める中で大砲が撃てるはずがないと家康は考えていた。しかしアダムスは慌てる様子もなく、なぜか紙と鉛筆を取り出して何かを描き始めたのだ。「なにをしておるのか悠長に」と声を上げる家康に、アダムスは答える。「だからジオメトリー(幾何学(きかがく))が役に立つのです」
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