"海の隼"をあるく 〜按針が見たニッポン〜30 伏見編(2)作・藤野浩章
"海の隼"も、所詮(しょせん)はトクガワに自在に操られるハヤブサでしかなかったのか・・・。(第三章)
◇
アダムスたちが臼杵(うすき)に漂着してから半年。旧教勢力の妨害や豊臣政権内の権力争いに露骨に巻き込まれ、いつ命を落としてもおかしくない状況だった。もっと言えば、関ヶ原では西軍に加担していたかもしれない。
そんな歴史のいたずらはつゆ知らず、帰国のチャンスをひたすら待っていた。ところが、家康本人からそれが叶わないことを聞かされ、アダムスは呆然とする。
冒頭にある場面は、実は家康が趣味としている鷹狩のタカを放つ場面で語られている。縦横無尽に海を駆け回ってたアダムスは、家康の元で操られるしかないのか。
本書ではこの場面を繊細に描きつつ、実はこの時、アダムスの胸に諦(あきら)めの心情と同時に、それを凌ぐくらいの「希望」があったのではないか、と語りかけているようだ。そう、アダムスは開き直ったのだ。望郷の念よりも"大きなうねりに身を任せることの面白さ"を見出したのではないか。与えられた状況の中で自由に飛び回るしかない──タイトルの「隼」は、この心情を端的に表している言葉なのだ。
実際にこんな目に遭ったら、普通は廃人同然となりかねないだろう。しかし彼はもともと航海士。ひたすら風を読んで航路、そして人生を切り開く胆力が備わっていた、と言ったら短絡的だろうか。
伏見の地でこうして生まれ変わったハヤブサは、家康との強力なタッグで、新しい歴史を紡いでいくことになる。
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