横須賀・三浦 コラム
公開日:2024.01.26
"海の隼"をあるく
〜按針が見たニッポン〜37 駿府編(1)作・藤野浩章
「メアリーはきっと再婚しているに違いなく、子どもも幸せに暮らしているに相違ない。按針はアダムスにそう言い含めた」(第五章)
◇
按針には、3人の「妻」がいたという。その1人が、母国イギリスに残してきたメアリー。キリスト教での重婚はご法度だから、通常であれば帰国しての再会を心待ちにするところだろう。しかしそれがままならない中で、18歳のゆきが登場する。ゆきは按針の江戸屋敷を世話した有力者、馬込勘解由(かげゆ)の娘だ。
馬込には、実は按針を介してオランダとの貿易にありつけるのでは、という下心があった。加えて、幕府としても按針をさらに活用したい。本書では、馬込が幕臣の本多正信から「家康は将来とも按針を手放さないだろう」という話を聞いていたというエピソードが語られている。按針の知らないところで、いろいろな思惑がうごめいていたのだ。
しかし肝心なゆきは、父親の下心を知ってか知らずか、「紅毛(こうもう)人は日本人よりも優しい」と、按針への純粋な好意をほのめかす。そんなゆきの心の内を確かめるべく、彼女の元へ足繁く通ったのが三浦浄心(じょうしん)だった。その甲斐あってか、按針本人も「三年音信なきは死と見做(みなす)」という船乗りのしきたりを考え、徐々に相思相愛になっていく。40歳の按針との"歳の差婚プロジェクト"は、幕府も巻き込んだものだったのだ。
その幕府だが、ちょうど家康が駿府(すんぷ)に隠居して大御所となり、江戸との二元政治が始まるタイミングだった。按針は、この流れの中で、さらに運命を翻弄(ほんろう)されていく。
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