"海の隼"をあるく 〜按針が見たニッポン〜40 平戸編(1)作・藤野浩章
「この古ダヌキめ」(第七章)
◇
浦賀から直線距離で950キロ余り。地図では九州の左肩の端に当たる平戸は、世界文化遺産の島として知られる風光明媚な場所だ。
遣唐使の時代から日本の玄関口になっていた地だっただけに"交易は儲かる"という意識が早くからあったのだろう。鎌倉時代の倭寇(わこう)(海賊行為)の一部も松浦(まつら)水軍によるものだったし、室町時代には明(中国)の大海賊だった王直(おうちょく)まで迎え入れ、密貿易を積極的に展開していた。この王直は1549年に鉄砲を種子島にもたらしたポルトガル船にも同乗していた人物で、彼にポルトガルとの交易を依頼していたのは実は松浦氏だったという。
「海賊と密貿易の巣窟」(第八章)と按針が言ったように、儲けのためなら手段を選ばないのが松浦氏のやり方。それだけに、ポルトガルの力が衰えた頃にやって来たオランダとの交易に躍起になっていたのは容易に想像できる。あらゆる優遇策を繰り出して、商館を誘致していたのだ。
まるで猿島のような形をした小島が目印のように浮かび、船が盛んに行き来している平戸港。少し離れた高台にある平戸城から、商品を満載した交易船を見るのはさぞかし気持ちが良いものだったろう。
こうして、見事に家康を出し抜いてオランダ商館を設置した平戸藩。後にイギリス商館も誘致してまたもや家康と按針を落胆させる。
ところが1613年、"古ダヌキ"と按針が称した領主・松浦鎮信(しげのぶ)は、思わぬ代償を払うことになる。
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