OGURIをあるく 〜小栗上野介をめぐる旅〜第13回 特別編文・写真 藤野浩章
ドラマ「またも辞めたか亭主殿〜幕末の名奉行・小栗上野介(こうずけのすけ)」は、2003年のNHK正月時代劇として放送された。
原作者の大島昌宏はすでに他界していたが、「月はどっちに出ている」「血と骨」などを手がけ、後に紫綬褒章(しじゅほうしょう)を受章する脚本家・鄭 義信(チョン ウィシン)さんが『罪なくして斬らる』に惚れ込んでドラマ化が実現したという。
原作に比較的忠実だが、本書ににじみ出る小栗の熱血ぶりをコミカルに描き、それを主演の岸谷五朗さんが生き生きと演じられていた。妻・道子役の稲森いずみさんとの夫婦愛を軸に、盟友の栗本鋤雲(じょうん)を松重豊さん、他にもベテラン俳優が名を連ね、とても厚みのあるドラマだった。
特筆すべきは、勝海舟(かつかいしゅう)。冒頭から対馬をめぐる2人の言い合いがあるが、演じたのが西村まさ彦さん。今でも読む度に西村さんの顔が思い浮かぶほど、個人的には最適なキャストだったと思う。
クライマックスは、横須賀製鉄所ができる場面。放送前年の9月に、なんと当時造成中だった湘南国際村に巨大なドックを造って撮影されたのだ。招待されてロケを見学したが、山の中に出現したドックと数百人のエキストラに本当に驚いた。そして後編のラストには完成したドックを小栗が眺めるシーンがあり、これは実際に米軍基地内で撮影した貴重なもの。横須賀市の多方面の協力があったと思われるが、そのおかげで後に何度も再放送される壮大な作品になった。それだけに、斬首に向かう場面は実に切ない。
小栗の生涯が映像化されたものがほぼ無い中で、貴重な作品。本書と合わせて、彼の功績を知ることができる名作だ。
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