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三浦版 公開:2019年11月15日 エリアトップへ

連載 第51回「隣松庵のこと」 三浦の咄(はなし)いろいろ みうら観光ボランティアガイド 田中健介

公開:2019年11月15日

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本瑞寺境内、岩村透像
本瑞寺境内、岩村透像

 明治時代の末から大正にかけて白石の地は避暑客が多く、どの家も客が溢(あふ)れていたと言われています。この人達を土地の人は「潮湯治(しおとうじ)の人」と呼んでいたとのことです。

 大正元(1912)年の夏頃、東京美術学校の校長であった岩村透氏が白石の真福寺の裏の高台に「隣松庵(りんしょうあん)」という別荘を建てています。

 「三崎にも家を建てているが(中略)それは藁葺(わらぶ)きの丈夫な漁師の家の様(よう)なものにした。三崎を中心として三浦半島の南部沿岸は宛然(えんぜん)(まるで)南欧(南ヨーロッパ)の趣(おもむき)がある。遠い南欧に行かずともすぐ近所に伊太利(イタリー)がある。特に私の家の回りにも柑橘類の樹木を植えて、大(おおい)に南欧の趣(おもむき)を作らうと思ふ」(岩村透談「住宅問題その他」所収、『読売新聞』1911年7月21日)

 (平成25年6月「三崎を愛した美術史家―岩村透とその時代」と表題した、東京大学院教授、今橋映子氏の講演資料のものです。読みがなは当筆子が付けたもの)

 さらに同資料に、岩村透から水谷鉄也宛の書簡として次のようにあります。年代は不明とのこと。

 「冬の三崎は又格別(かくべつ)にて、晴天の日は[華氏]六十度を降(くだ)り不申(もうさず)、黄金(こがね)色の陽光に浴し候(そうろう)心地は真の極楽(ごくらく)に御座候(ござそうろう)。ジェラニウムの花野天(のてん)に咲き居(お)り候(こう)を以ても、当地の暖かさの推察被致候(されいたしそうろう)事に御座候(ござそうろう)。(中略)冬期の空気晴朗(せいろう)、晴天の日は箱根大山(おおやま)より天城(あまぎ)の連峰手に取る如く相(あい)見え、富士の雪姿(ゆきすがた)の明媚何(めいびなん)とも申し難(がた)く候(そうろう)、大島の噴煙も明らかに眺め得申候(うもうしそうろう)(中略)椿の花は目下(もっか)盛に咲き居(お)り、メジロの囀(さえずり)声真(まこと)に山中の感を起し申候(後略)(板井犀水『三崎と岩村先生』十年忌記念講話梗概筆記)」と資料にあります。なお、読みがなは筆子のもので、正解性はどうでしょうか。

 岩村透氏は近代美術の開拓者で、現在の東京芸術大学の初代校長で、その著『巴里(パリ)の美術学生』で、西欧の近代美術を日本に紹介した人でもあります。四十八歳という若さで、大正六(1917)年に永眠されました。その葬儀について、『三崎町史』に「(前略)故人の遺言に従ひてすべて土地の風を変ゆる事なしに行はれた。(中略)皆一様に白蓮の造花を手にした行列は、海水浴の群集に込み合う海浜の狭い路を縫って、桜の御所本瑞寺の石段を登り本堂の前を三遍廻ったものである。」(後略)と、清見陸郎著の『岩村透と近代美術』を引用して書かれています。

 本瑞寺の山門を入って右手側に、朝倉文夫作の胸像があり、それを支える柱のような台石の正面に草書体で「一念之誠可動天地」(一念(いちねん)の誠(まこと)天地をも動かすべし)と刻まれ、下に「観堂」の署名があります。

 なお、氏の墓は本堂に向かって左側、鐘楼の先きに「岩村透先生之墓」と刻されてあります。        (つづく)
 

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