葉山の海を潜り、水中写真、とりわけ魚の産卵やふ化を狙ってシャッターを切り続けている人がいる。風早橋近くにある「ダイビングショップナナ」を経営する佐藤輝(てる)さん(39)。開業して8年。仕事の傍ら、雄大な海に育まれた生命の虜になり、趣味で撮りためた写真は実に2万枚近くになる。
水中写真 撮り続け2万枚
「これはハナタツと言われるタツノオトシゴの一種が子どもを産んでいるところです」。先月撮影したばかりの1枚を取り出し、少年のような笑みを浮かべる。先ごろ、腹の膨らんだ1匹を偶然見つけた。タツノオトシゴは雌から卵を受け取った雄が体内で抱卵し、子どもを産む。出産は深夜。正確な時間は分からないため、深夜1時頃にスタッフと海へ入り明け方まで「その時」を待った。粘ること6日目、ついに待ち望んだ瞬間が訪れた。「感動的でした」。撮影に成功したのは今回が初めて。15分ほどの出産中、夢中でシャッターを切った。思い入れのある写真はまだまだある。愛嬌たっぷりの表情を浮かべるダンゴウオや砂からちょこんと顔を出すギンポ、日光で黄金色に輝く海藻の森。いずれも葉山の海で収めたものだ。
大学卒業後、大手ホテルに勤めたが「どうしてもダイビングがやりたい」と退職し、資格取得を目指してサイパンへ。帰国後、生まれ育った葉山の海で見た景色が転機になった。
春先、潜ってみると周囲は薄く濁っている。だが目を凝らせば数えきれないほどの生き物がいることに気が付いた。水温が上がる時期、プランクトンが爆発的に増える「春にごり」と呼ばれる現象で「昔遊んだ磯の先にこんなにも豊かな生態系があったのか」と衝撃を受けた。生い茂る海藻が生命のゆりかごになり、葉山でしか見られない希少な生き物も多くいる。次第に関心が高まり、それらを撮影するように。今では「最終的には葉山にいる魚の出産を全部見てみたい」というほどだ。
ダイビング客にも水中撮影は好評で、撮影場所やコツを紹介したり。根底にはこんな思いもある。「海の下に広がっている、豊かな葉山の自然を少しでも多くの人に知ってもらえたら」
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