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鎌倉 人物風土記

公開日:2013.10.25

明日10月26日、円覚寺で演奏会を開催する鎌倉出身のバイオリニスト
前田 朋子さん
ウィーン在住 40歳

「バッハの祈り表現したい」



 ○…「バイオリニストのバイブル」とも呼ばれるバッハの「無伴奏バイオリンのためのソナタとパルティータ」全曲演奏会を、20日の建長寺に続いて明日26日、円覚寺方丈で行う。「今日を生きることの感謝や明日への希望―。バッハの音楽には常に『祈り』があります。同じく祈りの場として人々を支え続けてきた鎌倉の寺院でどのような演奏ができるか、ワクワクしています」と意気込む。



 ○…父の仕事の関係で4歳から8年間をドイツで過ごした後、鎌倉で青春時代を送った。バイオリンを始めたのは3歳。「練習は嫌いでしたけれど、辞めたいと思ったことは一度もありませんでした」と振り返る。音大在学時に欧州に留学。数々のコンクールで賞を獲得したが、大学卒業と同時に結婚。スイスやオーストリアで育児と主婦業に専念し、演奏活動から遠ざかった。



 ○…転機は2006年。偶然、世界的ピアニスト・スコダ氏と演奏する機会を得た。「とにかく楽しくて、私がやりたかったのはこれだ、と思いました」。もう一度、自らの手で音楽を届けたい。そう考えた時、「テクニックだけではない、音楽家、人間としての全てが試される作品」というバッハの「無伴奏」に挑むことを決めた。11年と13年にCDをリリースし、高い評価を受けた。現在はウィーンを拠点にヨーロッパ、日本でコンサートを続けている。



 ○…「東西の文化が融合した演奏会になれば」とオーストリアの著名なデザイナー、ラホン氏が和服を素材に手がけたドレスを身に着けるなど、意欲的な試みも。「色々な縁が重なって今回の演奏会が実現できた。この出会いを大切にして、最高の演奏を届けたい」と笑う。「回り道」があったからこそ、音楽と向き合える今を楽しんでいる様子が伝わってくる。母として音楽家として、積み重ねた時間が響きの深さにつながっている。円熟期はまさにこれから、今後もその活動から目が離せない。

 

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