鎌倉のとっておき 〈第100回〉 鳩が舞い降りる街
源氏の守り神として崇(あが)められた鶴岡八幡宮。後に豊臣秀吉や徳川家康などの為政者たちにも篤(あつ)く崇敬された日本を代表する八幡宮である。本宮には縦約108cm、横約56cm、「八幡宮」と記された扁額(へんがく)が掲げられているが、この「八」の字をよく見ると2羽の鳩で形作られている。
鳩は、旧約聖書にある「ノアの方舟(はこぶね)」の神話や、群れを成す習性などから平和の象徴とされているが、日本では八幡宮の祭神、応神天皇が国内を平定する際、道案内したのが鳩だったとのことから、鳩は「八幡様のお使い」ともいわれている。
また鎌倉期には、戦で勝運を呼ぶ鳥として鳩の絵柄を家紋に使う武士も現れた。特に、石橋山の戦いで敗れた源頼朝を助けたとされ、源平合戦でも活躍した熊谷直実(くまがいなおざね)が、2羽の鳩が対になった家紋を用いたことで、鳩の家紋は全国へと広まっていったようだ。
片や源平合戦の最後となる壇ノ浦の戦いでは、源氏の白い鳩が平家一門が入水したことを鎌倉に知らせた伝説も残る。
時を経て、明治期の鎌倉では、八幡宮の鳩をモチーフにしたお菓子も製造・販売されるようになり、今では人々に広く愛される銘菓の一つとなっている。
1964年、戦後復興の象徴とされた「東京オリンピック」の開会式では、8千羽もの鳩が秋空に放たれたという。今こそ八幡宮の鳩たちとともに、希望を込めて一日も早い平和な毎日の再来を願わずにはいられない。
石塚裕之
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