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寒川 人物風土記

公開日:2019.12.13

寒川獅子舞の会で会長を務める
後藤 進さん
岡田在住 82歳

祈りをこめて吹き続け

 ○…寒川のお正月の風物詩といえば獅子舞だ。篠笛を吹いて町内を巡る忙しい季節がやって来る。初めて笛を教わったのは50年ほど前、菅谷神社のお囃子だった。「ちょっと音を出しただけで先生に褒められて、唇が変形するまで吹くようになった。おだてられたのさ」。棚から笛を取り出し、木枯らしのような音を奏でると、膝の上にいた猫が飛び上がって逃げ出した。「尺八も25年やったけど、今はもっぱらホラ吹き専門だ」。

 ○…農家の6人きょうだいの2番目、父は寒川名物のシクラメンを町内で最初に栽培した人だった。少年時代は戦争の真っ只中で、食事は毎日イモ。おやつ代わりにシ

イの実を採ろうとして、木から落ちて骨折したのが懐かしい。ある日、平塚方面の空に焼夷弾が光の帯のように注ぎ、ある晩は横浜の空が空襲でピンク色に染まった。自宅で玉音放送を聞いている時に、母が隣で泣いていた。「何で泣くのかわからなかった。戦争の理由も。男は戦争に行くのが当たり前だった」。

 ○…寒川中から平塚農業高校を経て、農の道ひとすじ。両手の甲にはしわだらけの薄い皮が張り付き、関節が透ける。27歳で結婚後、この手で3人の子を育てた。父が始めた蓮の栽培を継いで、初夏には青紫の花々を収穫する。「最高の花だよ、仏様が座るんだから」。この蓮畑も今ではすっかり町の風物詩だ。

 ○…獅子舞に加わって26年。会長としての意気込みを聞くと、目を閉じて「五穀豊穣・無病息災」とつぶやく。活動の根本は誰もが健康で幸せに過ごすこと。祈りを込めた獅子舞にはひょっとこも登場し、男が女を、女が男を演じる。獅子の仕草も愛らしい。「ニヤニヤしたくなるものにしないとね」。細い両目が笑みに埋もれた。

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